Story.2 優しさの代償




「森の中にこんな家があるんだぁ……」
 少女は目の前に建つ家を仰いだ。
 その家は一般的なものより一回り小さめで、たまご色の壁には蔦が這っている。庭には色とりどりの野菜が植えられて、小さな家庭菜園のようだった。ベランダにも沢山の鉢植えが並んでおり、窓からもハーブらしき植物が覗いている。
「ここが、記憶師の家」
「へぇ、初めて来たー! そういえば、ハール君ってここにはよく来るの? さっき話してるとき、記憶師のこと『あいつら』って言ってたよね。知り合い?」
「初めて来たって、来たことあったら大変だろ……まぁ知り合いだからたまに顔見せに。てかそんなことよく覚えてたな」
 そのわりには緊張しているか、叩き金に触れるのを躊躇う素振りを見せるハール。しかし数秒の逡巡の後に扉を鳴らした。
「はーい」
 女性の声。その返事から数秒、木製の扉が開く。
「おまたせしまし……あ、なんだハールかぁ」
 姿を現したのは、ハニーブラウンの髪を肩より少し下まで伸ばし、眼鏡の奥の同色の瞳には穏やかな光を湛えた少女。水色のワンピースを身に纏い、頭に付けたヘアバンドからは半透明のヴェールが流れている。
「……『なんだ』って酷くね?」
「ふふ、ごめんなさい。お客さんかと思ったから……二ヶ月振りくらいかしら」
 二人は簡単な挨拶を終えると、ハールは辺りに視線を走らせる。
「それで、ココ、その、あいつは……」
 その様子に、「ココ」と呼ばれた少女は悪戯っぽい表情を浮かべた。
「レイは町へ買い出しに行っているわ」
「良かった……」
 あからさまに安心したように溜め息をつくハール。その様子に、くすくすと笑うココ。
「安心した? でも、もうすぐ帰る頃だと思うわよ。……ところでハール、彼女達は?」
「今日はそのことで……頼みが」
「……何かしら」
 ココの顔から表情が消える。尋ねながらも、彼の真面目な表情に『仕事』絡みかと察したのは明白であった。
「実は…………」
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