Story.2 優しさの代償


 魔法と科学の融合兵器、『魔物』。これは生きている生物を捕獲し、身体能力を極限まで強化、殺傷のみを行動目的とし、上位の個体になると魔法まで使えるという、まさに狂戦士。それが何千、何万といるのである。瞬く間に形勢はグレムアラウドへと傾いた。


 そしてその時。追い詰められた連合軍側に、決定的な追い打ちがかかった。
 獣人族による、裏切りである。
 獣人の中にグレムアラウドの上層部と密通していた者が多数おり、いくつかの主力部隊の隠れ蓑を密告され、大幅に戦力を失うことになったのだ。
 まさに、絶対絶命。しかし、元より人数の少ないグレムアラウド王国軍。その時点で兵士の数はもはや壊滅的になっていた。魔物の数も百にも満たない程に減り、戦場に倒れていた兵士、既に骸となった魔物など、生命活動を終えた者達までもを魔物化させるという状況に陥った。この死体を使った魔物生成は通常の魔物より生命力が強いが、自我が無いに等しく、生ける屍となってしまう。その容貌はあまりに醜怪であった為、当の魔族からも嫌悪されていたらしい。それらを使わねばならぬ程に状況は切迫していたのである。
 とにかく、大戦後半はそんな腐敗した死体が徘徊し、血で血を洗う状況下。まさに地獄絵図そのものだった。


 そして最後には消耗戦となり、頭数の多かったリネリス王国連合軍が勝利を勝ち取ったのだった。

 しかし結果としては、両者自分の国を建て直すだけで精一杯であり、勝戦国リネリスが敗戦国グレムアラウドを支配するなど、そういった余裕は全く無かった。よって、領土や立場は変わらず、実質政治的に変化したことは無かった。



 ただ変わったのは、一部種族間の関係に深い溝ができたということである。
 勿論この大戦後、人間と魔族の関係は過去類を見ないほど険悪なものとなり、また、敵対関係にあったエルフも魔族との関係が悪くなった。


 そして、獣人は全種族から裏切り行為をしたとして、侮蔑の目でみられるようになった。
 完全的な差別である。真っ当な職へ就くことが困難になり、住む場所を追われる身となった。さらに、元より寿命が短いので、現在その数はかなり少なくなっている。
                        
 だが、一番の被害者は――……鬼族。平和を愛し、中立立場を貫いた彼らであったが、戦火に巻き込まれほぼ全滅に近い状態になってしまったのである。
 その原因は、エルフがリネリスに取り付けた「森を戦場としない」という約束が大きかった。森が戦場にならないということは、残るは――平原。鬼族が、住む地域である。武器を持たない彼らは、抵抗することすら敵わなかった。よって、今日の鬼族は『稀少種族』と呼ばれる程に少ない。故に、周りから好奇心や興味の目でみられることが多い。


 大戦の不満が政府に来ないようにする為、戦争の『悪役』として利用され、戦後の混乱の中、大量虐殺まで行われた獣人族。

 平穏を望んだが故、身を滅ぼす結果となり、戦争の『悲劇』としていいように国に扱われた鬼族。


 様々な爪痕だけを残して、聖暦二十九年、今から一八九年前、リィースメィル大陸第二次大戦は、幕を下ろした。実際に戦っていたのは三年間だったが、その悲しみ苦しみは百年分に相当する、そういった意味合いで、人々はこう呼んだ――……

 『百年戦争』、と。
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