Story.2 優しさの代償
「彼女」は樹の幹に寄り掛かり、落下しないように上手くバランスを取りながら、太い枝の上で転寝をしていた。微睡に身を任せていると、ふと若い男性の声が耳に届く。何かを説明しているようだが、これは――――……リィースメィル大陸の歴史?
――聖戦終結から、二十五年後。現在より一八七年前。ついに、グレムアラウドが反撃を開始した。領土拡大を宣言し、リネリスに宣戦布告をしたのである。布告をしたのは、先の大戦で奇襲を仕掛けてきたリネリスへの皮肉の意味もあったのだろう。
それを受け、リネリスは負ける訳にはいかぬと他種族に共闘要請をした。
まずは、しなやかな肢体、明達な頭脳、美しい容姿に長く尖った耳、戦闘センスに優れ、自らの種族であることに矜持を持つ誇り高き森の住人『エルフ族』。
頭に小さな角を生やし、家畜の餌を求め簡易住宅で広大な平原を移動する遊牧種族、『鬼族』。
人間と変わらない知能、身体能力を備え、獣の耳と尻尾を持ち、その種類は特異なものを含めず大きく分けて『ケット・シー』と『クー・シー』の二種により構成される、寿命が約三十歳という短命の種族『獣人族』。
この三種族に共闘要請を持ちかけた。エルフ、獣人は悩んだ末に戦争に参加することを承諾。ただしエルフは、極力森を戦場にしないという約束を交した上での参戦。鬼族は平和を何よりも望むことから参戦を拒否。
こうして、人間・エルフ・獣人による『リネリス王国連合軍』と『グレムアラウド王国軍』による、リィースメィル大陸第二次大戦の戦火が上がった。
三種族と一種族では、戦力的にも人数的にも圧倒的に連合軍側が有利と思われた。
――が。魔族も、馬鹿ではない。リネリスが他種族に共闘を求めるなど、当然想定の範囲内であった。もし、自分達以外の全種族を敵に回したとしても、勝算は十分にあったのである。何故なら、技巧なる自らの魔法と、そして皮肉にも人間から伝達された科学を結集して創られた存在、生体兵器――通称、『魔物』があったからだ。
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