Story.16 きざはしの歌 -1/2の景色-
影から様子を窺うフェスタ。炎が降りやむ気配はなく、脳裏にちらつく風景。逃げる人々、燃える家屋、夜空を舐めとる火炎――その光景自体に傷痕を感じはしないが、あまりいい気はしなかった。
「そういや、縄張り意識が強いため餌場には踏み入るべからずって書いてあったわ……」
あくまで威嚇なのか、煙突の後ろまでは回り込んでこようとしない。だが、下が煉瓦だとはいえこうも火を落とされては宿に引火するのではないかと気が気でない。できる限り早く対策を考えなければ――。
「何か弱点とかそういったものはご存知ではありませんの?」
「……魔獣だからな。普通の動物とか下位の魔物と違って生命力も魔力も桁違いだし……正直思い付かない」
「成る程……なら少しくらい刺した程度では死なないということですわね。ちょっと投げてみます」
「そういうことになるな。あと何だっけな、身を守るために――っておい!?」
躊躇いなくナイフを投擲しようとしたフェスタの手をハールは抑える。
「いきなり手荒すぎるだろ!?」
「攻撃してきたのはあちらからですし、動きを封じるなり追い払うなりしませんと……下に人がいますのよ、手遅れになったらどうしますの」
静かに、強い声色。そして“手遅れ”という言葉が瞬時に彼の表情を曇らせた。
「そう、だよな……」
その時、再び距離感の掴めない鳴き声が響いた。火の粉を纏う翼をはためかせこちらに向き合ったかと思うと、鉄の牙のような大きな嘴を開き大量の火炎を放出した。先程より落下速度が速い。――よく見れば炎の中に芯がある。炎そのものではなく、体内に入り砕かれた煉瓦が燃えながら吐き出されているのであった。炎の大きさは拳ほどであるが、芯のそれ自体は小石と呼べる程度なのは幸いである。
「――っ、分かりました! 傷を負わせたら私が治してから逃がします! それでどうですか!」
迫る火の欠片。そのなかで、彼女は彼の感情を責めなかった。
「――――……」
煉瓦の破片が落ちる音の間隔が短くなってくる。
「……悪い」
「いえ、少し安心しました。貴男にも人らしいところがあって。……子供のころの、思い出なんでしょう」
わずかにフェスタは目を細める。しかしその眼差しはすぐに真剣なものへと変わった。
「少々浅慮でしたのは認めます。仕掛けるのであれば、あの丸い鳥さんの背後はコレが落ちても問題ないようにするのが賢明ですわね」
手にしたナイフを軽く揺らす。火喰鳥の背後は宿の正面。こちらの後ろには海原が広がっているのみ。前者や左右は絶えず往来がある。ナイフが落下でもすれば事だが、炎石は火が点いているとはいえある程度まで落ちれば風で自然に消えるであろう。残った石自体も仮に人に当たったとして脅威になる大きさではない。――ならば。
「まあオレたちがここにいても……向こうは動かねぇよな」
目を合わせるとどちらともなく頷く。考えることは、同じのようだ。
「露払いお願い致しますわ!」
「――了解!」
「そういや、縄張り意識が強いため餌場には踏み入るべからずって書いてあったわ……」
あくまで威嚇なのか、煙突の後ろまでは回り込んでこようとしない。だが、下が煉瓦だとはいえこうも火を落とされては宿に引火するのではないかと気が気でない。できる限り早く対策を考えなければ――。
「何か弱点とかそういったものはご存知ではありませんの?」
「……魔獣だからな。普通の動物とか下位の魔物と違って生命力も魔力も桁違いだし……正直思い付かない」
「成る程……なら少しくらい刺した程度では死なないということですわね。ちょっと投げてみます」
「そういうことになるな。あと何だっけな、身を守るために――っておい!?」
躊躇いなくナイフを投擲しようとしたフェスタの手をハールは抑える。
「いきなり手荒すぎるだろ!?」
「攻撃してきたのはあちらからですし、動きを封じるなり追い払うなりしませんと……下に人がいますのよ、手遅れになったらどうしますの」
静かに、強い声色。そして“手遅れ”という言葉が瞬時に彼の表情を曇らせた。
「そう、だよな……」
その時、再び距離感の掴めない鳴き声が響いた。火の粉を纏う翼をはためかせこちらに向き合ったかと思うと、鉄の牙のような大きな嘴を開き大量の火炎を放出した。先程より落下速度が速い。――よく見れば炎の中に芯がある。炎そのものではなく、体内に入り砕かれた煉瓦が燃えながら吐き出されているのであった。炎の大きさは拳ほどであるが、芯のそれ自体は小石と呼べる程度なのは幸いである。
「――っ、分かりました! 傷を負わせたら私が治してから逃がします! それでどうですか!」
迫る火の欠片。そのなかで、彼女は彼の感情を責めなかった。
「――――……」
煉瓦の破片が落ちる音の間隔が短くなってくる。
「……悪い」
「いえ、少し安心しました。貴男にも人らしいところがあって。……子供のころの、思い出なんでしょう」
わずかにフェスタは目を細める。しかしその眼差しはすぐに真剣なものへと変わった。
「少々浅慮でしたのは認めます。仕掛けるのであれば、あの丸い鳥さんの背後はコレが落ちても問題ないようにするのが賢明ですわね」
手にしたナイフを軽く揺らす。火喰鳥の背後は宿の正面。こちらの後ろには海原が広がっているのみ。前者や左右は絶えず往来がある。ナイフが落下でもすれば事だが、炎石は火が点いているとはいえある程度まで落ちれば風で自然に消えるであろう。残った石自体も仮に人に当たったとして脅威になる大きさではない。――ならば。
「まあオレたちがここにいても……向こうは動かねぇよな」
目を合わせるとどちらともなく頷く。考えることは、同じのようだ。
「露払いお願い致しますわ!」
「――了解!」