Story.16 きざはしの歌 -1/2の景色-

 自分の容姿がここまでの程度だったなら食い扶持を稼ぐのにも何かやりようがあっただろうか、などと考えてしまう。もっとも、本人は外見を利用しようという考えは微塵もないのだろう。そもそも利用できる域だという認識があるのかどうかも危うい。いや、きっとない。そんなことを考えながらフェスタは手を取り、無事屋根の上へと到着する。すると、彼は信じられないものを見るかのような眼差しを向けてきたのだった。
「な、何ですの……」
「いや、要らないってはたかれるかと……」
「貴男、私を何だと思ってます!?」
「アリエタに居た時だったら絶対やってただろ」
「まあ、それは……」
 お人好しにしては痛いところを突いてくるではないか。そう言われると、そうだとしか言えない。言葉を濁すフェスタに、ハールは少しだけ意地悪く見えるよう笑う。
「数日で人って変わるもんだな?」
「ああもう……! 無駄口叩いてないで早く直しますわよ」
 言うとそっぽを向くのも兼ねて屋根に置かれていた板切れや鎚を持ち上げる。――意外だ。彼も、人をからかったりこんな顔で笑ったりできるのか。出逢ってほんの数日の人間など知らない面の方が多いに決まっているのだが、数少ない知っている面を振り返るとお人好しというか――優しい、のだが――少し、“異常”とも言えて。だから、そんな部分しか見ていなかったから、何というか――今、彼が普通の少年のようで。
「それだけ言い返せるなら平気そうだな」
 ふと、意地悪な笑みが緩む。
「オレは……音楽について全然解らないけどさ、これにも何か……意味があるんだろ、多分……きっと……恐らく…………」
「励ますの下手すぎですか?」
 あまりの不器用具合に吹き出してしまった。こんな物言いではあえて相手を不安にさせようとしていると言われても納得してしまう。
「でも、ありがとうございます」
「本当オレこういうの駄目だわ……」
 くすくすと笑うフェスタに、額に片手をやるハール。せっかく恵まれた容姿をもっているのだから、それに見合ったもっと自信のある物言いをしてもよいのではないかと思うのだが。中身と外見は関係ないという意見もあるだろうが、それでも致命的に合っていないのが何だかとても彼らしい。まだよく知らないのに“らしい”というのも、おかしな話だけれど。
「まあ! 自覚がおありですのに、それでもしてくださったんですのね?」
「やめろもうー……」
 ――好ましい、と感じているのは事実で。これから旅路をともにする仲間の新しい一面を知ることができたのが、素直に嬉しかった。
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