Story.15 きざはしの歌 -暁との邂逅-

「あの方たちは、それくらいで笑ったりはしないと思いますが……」
「いや、まぁそうなんだけどさー……はは」
 そしてやや考える素振りをすると、再び口を開く。
「……それとさ、代役の件だけど……強引だったのは否定できないから謝るよ。ごめんね。でも、好きなことが今まででは考えられない形でできる好機がきたんだよ。やった方がいいよ」
 正論だ。この四人がそれほど長く共に旅をしていたとは聞いていないが、“ああいうお人好し”といるのだ。いられるような人間なのだろう。朗らかで、前向きで、優しくて、仲間思いで――自ら着いてきたとはいえ、やはりこの中でやっていけるのだろうかと一抹の不安が過る。
「無責任な言い方になるかもしれないけど、フェスタは……これから何だってできるよ」
 明るいその声色は、だからこそ、影濃く聞こえて。その影が伸びたのはフェスタに対して、ではない。今の言い方では、まるで――――
 彼女の表情を窺う。その時には既に、特別な色は浮かんでいなかった。
「あー、そういえばリセだけどね、ハール君とイズム君の部屋行ってくるって言って居ないんだ」
 そう言われれば。慣れないことをした疲労で気が回らなかったが、確かに部屋を見渡しても彼女の姿はどこにもなかった。ふと窓が目に入る。風が出てきたのか、僅かに揺れていた。
「……お疲れのところ悪いんだけどさ、丁度いいから話しちゃうね」
 彼女は自然に話し出した。互いの出逢った経緯とアリエタへ至るまでの道程、そして――――

 リセ・シルヴィアが他者を襲う危険を秘めていること。自身はそれを知らぬこと。

 ハール・フィリックスも例外ではなかったこと。

 フレイア・シャルロットはまだそれを目の当たりにしたことはないということ。

 それなりに経験のある魔導士であるイズム・ルキッシュでも、その原因は予想がつかないということ。

 特別や色は浮かんでいない顔、そのままで。淡々と。
 例えるなら、不治の病に侵された者が、当たり前のこととして自らの状態を説明しているように、ただ、事実のみを。両者に共通点があるとすれば、それは、“どうしようもないことを受け入れている”ということだ。
「……って感じらしいんだよね。まあアタシもハール君の説明以上のことは知らないんだけど」
 ベッドに座り、片足だけを折ってその膝に肘をつくフレイア。片手に支えられた顔がランプに照らされ、蒼い瞳が揺れる。しかしその揺らめきは彼女の感情によるものではなく、本当に炎によるものだと感じ取れた。
それでも共にあると。殺されても構わないとでもいうのだろうか。勿論積極的に離れろだの殺せだのとは思わない。しかし、さすがにそんな状況を受け入れるというのはお人好しだとかそういう程度ではない――
「……そのいつ暴発するかも分からない火薬と同じベッドでお休みとは。随分と余裕ですわね」
 彼女もあの男と同じように、自らの危険を省みない類いの人間か、と、理不尽な苛立ちが胸にくゆれた。
「ん、だから」

 ――“受け入れる”ということは、あたたかさと冷たさ、相反する性質を孕むものである。

「いつもしたまま寝てるの」

 右手のグローブについた携帯水晶に、柔らかく触れる指。
 その美しく優しげな所作とはおよそ真逆の意味を理解して、息を呑む。お人好しの仲良しごっこかと思っていたが――彼女は、冷静だった。
 危険であろうと共に歩む、そして――“その時”に対峙する覚悟もまた、できている。
「……懸命、ですわね」
 僅かに、声が喉に詰まった。
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