Story.15 きざはしの歌 -暁との邂逅-
弦と弦が離れ、最後の音が溶け消える。
「――どうだ?」
吊り上がる赤い痕。声色からしても、彼がどう思っているかは明白であった。
「少し調整は必要だけど、いいと思うよ」
「これなら……まあ」
否定的であったハンスが許容の色を見せた瞬間、ラウレッタはベッドから飛び掛かろうでもするかのような勢いで上半身を起こす。立ち上がることさえできれば、間違いなく彼に掴みかかっていたであろうと確信する気迫であった。
「ふざ、けっ、……! 気付いてな、……!?」
血でも吐くのではないかと思うほどに激しく咳き込んだ後、何かを紙に書き殴るとそれを床に乱暴に叩きつけるようにして投げる。それはひらひらと舞い、全員から見える場所に滑るようにして落ちた。
『そいつ獣人じゃない』
「……意見が分かれた時は多数決。旅団の決まりだろ」
マレクは静かに言うと紙を拾い、そのまま机の上に置いた。彼女は再び咳き込むと崩れるようにしてベッドに倒れ込む。
「そのまま寝かしつけてやれ。看病はお前たちも移らない程度にな、全滅したら目も当てられねぇ」
言うと、マレクはハンスとアデーラに彼女を任せ、五人に部屋から出るように促す。自身も廊下に出ると、彼はフェスタへと頭を下げた。
「……俺達から言い出したことなのにすまなかった。勿論宿代とは別に謝礼もする。どうか、力を貸してくれないか」
「そんな、顔を上げてください……私に貸せるほどの力、なんて」
再び背筋を伸ばしたマレクは笑みを浮かべ、フェスタの背中をタコのできた手のひらで軽く叩いた。
「大丈夫、しっかり練習はしてもらうさ!」
軽く、はあくまでマレクにとっての軽くでありフェスタは一歩前につんのめりそうになる。
「……あいつは歌に依存しすぎてる。離れる時間も必要だ」
すんでのところで踏み止まり、その声色を見上げる。榛色の瞳は、フェスタに向けられてはいなかった。
「大切だからってしがみついてるとな、見えなくなっちまうもんが……あるんだよな」
独り言のような、誰かに言い聞かせるような、自分に言い聞かせるような言の葉は、ひらひらと彼女にも舞い落ちてくる。
フェスタは何も言わず――言えず、ただ、遠くを見つめるその眼差しから目を逸らした。