Story.15 きざはしの歌 -暁との邂逅-
「先程はご歓談、お食事中に大変お騒がせいたしました! お詫びに、私どもの演奏を皆様の楽しい夜に加えていただいてもよろしいでしょうか」
良く通る声が室内に響く。それは喧騒のなかでも埋もれることなく、真っ直ぐにその場にいたすべての者の耳届いた。
階段を降りながら高らかにそう言ったのはあの少女だった。濡れた服を二階へ着替えに行ったらしい彼女たちは、服以外にも違う箇所があった。
「――私たちは『暁の旅団』!」
赤髪の少女と栗色の髪の女性以外は、手に弦楽器を持っていたのだった。名乗った瞬間、席についていた者の半数程度からわっと歓声が上がる。軽く手を振りながら彼らの間を通り抜け、四人はカウンターの側で足を止めた。
「ふお、有名な人たち……なのかな?」
「みたいだな」
「あ、アタシ聞いたことある気がする。今人気の旅芸人で、団員がみんな赤いものを持っているとかどうとか? うろ覚えだけど」
「まずは副団長のアデーラ! 担当するのは深く柔らかな音が特徴のヴィエラ=ヴ=ガルバ。こちらはハンス、澄んだ高音が魅力のヴィエラ=ヴ=ブラム担当です!」
アデーラと呼ばれた彼女は赤いリボンを結び腰に下げた装飾品――携帯水晶に手をかざしたかと思うと、柔らかな笑みを湛えてくるりと一回転。赤い輝きが彼女の周囲に尾を引き、まるで光と踊っているかのようである。そして足首までの長いスカートの裾がふわりと落ち着く頃にはその手に弦楽器が支えられており、流れるような動作でそのまま優雅にお辞儀をした。楽器は女性にしてはすらりとして身長が高い彼女の背の半ばを超えるほど。アデーラの傍には宿の者が椅子を用意していた。恐らくそれに座って演奏するのだろう。続けて紹介されたのは白金の髪に赤い目が印象的な少年。先程は少女に怒られおずおずとしていたが、注目のなかでもたじろがず微笑み会釈する姿は堂々としており、場に慣れていることを感じさせた。彼が持っている楽器はアデーラと形自体は似ていたが、大きさはその半分以下。肩で支えて弾くのであろう、一般的に弦楽器と呼んで思い浮かべるようなものであった。
「そして我らが団長のマレク、担当は鬼族の伝統的な弦楽器を元に改良した、ヴァロ=ヴ=オーグ!」
精悍ではあるものの破顔すれば人懐こさを感じる顔立ちで、赤い跡がその魅力を損なわせているようなことはけしてない。彼が手にしている弦楽器は、二人のものとは印象が大きく異なっていた。大きさはそれらの中間で、肩で支えるには大きいが、立ったまま持って床に着くほどではない。しかし彼の横にも椅子が用意されたので、座って演奏するのだろう。そしてほか二つは木でできた部分が梨の実形であるが、それが四角であること、そこから伸びる棹の先に馬の頭部が彫ってあることが特徴的だった。
「最後に私、歌い手のラウレッタ!」
右手を左胸に当て、赤い髪を肩から滑り落として深々と頭を垂れる。その時間は、誰よりも長かった。