Story.14 約束
――数時間前。
「……ちょっと『交渉』してきてもらえるかな? 今、いい感じに分かれてくれたみたいなんです」
向けられたのは、可愛らしい微笑み。
「二人のどっちか、お願いできるかな」
部屋に来たのがリェスだと気付くとコハクはベットから降り、足早に扉へ近づく。そしてその言葉にヒスイと一瞬視線を交わすと、リェスを見遣った。
「……お姫さん、その、初めてやし二人で行くってのは――」
「んー。それこそ初めてだし、いきなり人数いても威圧的かなって。一応お願いする立場だし、ここは一人がいいかもーなんて」
コハクの提案をやんわりと却下するリェス。彼女が言うのなら、従う他はない。コハクとヒスイは再び互いに見交わす。『交渉』とは言ったものの、穏便に済むとは到底思えなかった。“その為に”ここに居るということは解っている。解ってはいる、しかしあまりに唐突すぎるゆえ、すぐに首を縦に降ることは難しい――――
「……じゃあ、オレ行きます」
――はずであった。が、ヒスイが口を開く。
「ええんか?」
彼が自分から言ったこととはいえ押し付けてしまったようで、コハクは焦った様子で問う。
「一度行ったら、吹っ切れる気がする」
“一度行ったら”。ということは、まだ――その意味を理解するとコハクは何かを言おうとするが、それが言葉になることはなかった。ヒスイは彼女の様子を気にすることなく、部屋に入ると外套を荷物から取り出して羽織り、路地裏で出逢った時にも持っていた革袋を手にした。
「大丈夫です、すぐ行けますよ」
そして彼がコハクの横に戻ってきた瞬間、彼女はその革袋から金属の触れ合う音がするのを聞いた。
「じゃあ、ヒスイ君で決定だね。着いてきてくれる? ……あ、お話してたのにごめんねコハクちゃん。先に寝てて大丈夫だよ、おやすみなさい」
「あ、ああ……」
振り返って軽く手を降るリェスとその後ろに着いていくヒスイ。コハクは半ば唖然としつつ返事をすることしかできなかった。