Story.14 約束
翌朝、目が覚めるとフェスタはいなかった。
リセは宿を出る身支度をしながら、フェスタが寝ていたはずのベッドの空白を見遣る。
「彼は、『彼』でした」
帰路の途中、フェスタはリセとハールにそれだけ伝えた。話を聞いたばかりであるからして、その意味を二人はすぐに理解した。そして、約束が深い傷へと変わったことも。
『彼』だけを信じ、独りで待ち続けた再会があのような形になったにもかかわらず、彼女は怒りもせず、泣きもしなかった。何の表情も浮かんでいない横顔を思い出し、胸を締め付けられる。やり切れない想いをどうしていいか分からず、リセはペンダントを強く握った。まさか、自分以外の者がこの“記憶の鍵”にかかわってくるとは。一体何の目的で? これは何なのか? それを持っている自分は誰なのか。いや――――
(私は……何?)
「リセ、準備できた?」
思考に没していたが、フレイアの声が意識を引き上げた。
「う、うん」
鏡を見ながらゴーグルの位置を直しつつ言う彼女に、リセはぎこちなく頷く。
「……なーんか、大変なコトになってきたねぇ」
「……うん」
「実はアタシ達の知らないところで、アタシ達が想像できないようなことが……起こってたりしてー?」
グレムアラウドに行き、記憶師に会って鍵のかかった記憶を開く。
この旅はそういうものだと思っていた。だが、昨夜を経て旅の本質そのものが変わってしまったような気がした。
――……否、それは勘違いで、実際は初めからまったく異なるものだったのかもしれない。元からそうであって、今錯覚が解けただけなのではないか。
そんな一抹の予感が、窓から透ける朝日とともに二人へ差し込んだ。