Story.14 約束

「――フェスタ、大丈夫!?」
 叫ぶリセの隣に、携帯水晶に手を添えたハール。その後ろに緊張した面持ちのフレイアとイズム。
 フェスタと対峙していたヒスイは彼女達を一瞥すると目を伏せ、ゆっくりと言った。
「……この人数では、さすがに勝ち目がありませんね」
 彼は外套のフードを被り直すと、左手の裾を捲る。そこには麻紐に通された小さな黄色い球があった。
「今日は、これで失礼します。言い値で構いませんので、次お会いする時までに考えておいてくださると嬉しいです」
 次の瞬間、彼の身体が金色の光に包まれる。実物を見るのは初めてであったが、それが転移水晶だと悟るが否やフェスタは手を伸ばした。
「待って……!」
 指先は何の感触を得ることもなくただ光を通り抜ける。そこにあるのは、花びらに混じり舞い落ちてくる金色の破片だけだった。糸が切れたように崩れ落ち、柔らかな光に膝を突く。自らの名を呼ぶリセとハールの重なった声も、駆け寄ってくる足音も遠く聞こえた。
「――――……」
 潮風が、千年樹をまたひとひら、ひとひらと夜へ散らしてゆく。約束の花の海に突き立てられたナイフが、その酷く優しい薄桃色を映していた。
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