Story.13 アリエタの夜
───・…・†・…・───
リェス達の屋敷へ着いた夜。コハクはヒスイの自室として宛がわれた部屋にいた。非日常へと身を投じたばかりで似たような境遇同士話してみたいこともあるし、一緒にいるとやはり安心する。……本当のところは、単に仲良くなりたいという気持ちが半分以上を占めているのだが。
――夕方、メノウと共に転移してきた二人は着いてすぐリェスの笑顔に出迎えられた。その後彼女とは一度別れ、メノウに荷物を置くためそれぞれの自室となる部屋に案内された。
部屋は一人部屋としては十分な広さで、下手な安宿の二人部屋よりは余程広かった。屋敷の他の場所と同じように、華美さはなくとも調度品には温かみと品がある。先日リェスが「部屋なら沢山余っている」と話していたのをコハクは覚えていたが、改めて与えられるとなると待遇の良さにやはり少し驚いた。それよりも驚いたのは、ヒスイの荷物の少なさであったが。
「え、こんな綺麗な部屋使っていいんですか……」
「構わない、まだ余っているくらいだ。普段は使っていない部屋の掃除が大変でな……正直、誰か住んでもらった方がありがたい」
どうも家政婦を雇っているわけではないらしい。ということは、この屋敷の家事一切は彼女の仕事なのだろう。確かに、ここでリェス、メノウ、オニキス以外の者は一人も見かけなかった。メノウはリェスと関わりがあるのは自分とオニキスだけだと言っていたが、本当に彼女ら以外に人自体が居ないらしい。理由は分からないが転移水晶でしか出入りできないような場所なのだ。そうそう他人を入れるわけにはいかないのかもしれない。先日の、住み込みを求めるリェスの発言に対するメノウの反応からしても、自分達は相当特殊な立ち位置なのだろうと思う。
「せやろなぁ、こんな広いと……これからはウチも手伝うからな」
「あっ、オレもやりますから、掃除でも何でも言ってください!」
「すまない、助かる」
二人の言葉にメノウは頬に微笑を乗せる。続いて厨房や風呂、その他諸々の共同スペースに案内され、いずれも自由に使っていい旨を告げられた。リェスとメノウの部屋の場所も教えてもらい、次いで彼女は渋々と言った様子でオニキスのそれも教える。歩きつつ話してはいるが、実際に足を運ぼうとしているわけではないようだった。
「しかし、あまり用はないと思うぞ。アレから話し掛けられることもないだろうし、アレはアレでやることが……」
やること、と口にした瞬間言葉が止まり、瞳が思案に染まる。考えているというよりは忘れていたことを思い出そうとしているように見えたが、すぐにその色は掻き消えた。
「……いや、やることがあるからな。ああ、別に話し掛けるなと言うわけではないぞ」
同居をしているというのに、嫌悪とまではいかないものの好意が感じられないその口振りにコハクとヒスイは密かに顔を見合わせる。メノウはそれに気付いたようで、付け足すように言葉を重ねた。
「別に彼が嫌いなわけではない。ただ……」
悪意や冷たさというよりは、拗ねたような口調で。
「……どことなくいけ好かないだけだ」
その内容と深い理由がありそうではない雰囲気に「そんな理不尽な」と思わず突っ込みを入れたくなったコハクとヒスイ。しかし、
「特に、リェス様への無愛想な態度」
……そう続けられ、今までの彼女とリェスの様子を思い出し納得した二人だった。
リェス達の屋敷へ着いた夜。コハクはヒスイの自室として宛がわれた部屋にいた。非日常へと身を投じたばかりで似たような境遇同士話してみたいこともあるし、一緒にいるとやはり安心する。……本当のところは、単に仲良くなりたいという気持ちが半分以上を占めているのだが。
――夕方、メノウと共に転移してきた二人は着いてすぐリェスの笑顔に出迎えられた。その後彼女とは一度別れ、メノウに荷物を置くためそれぞれの自室となる部屋に案内された。
部屋は一人部屋としては十分な広さで、下手な安宿の二人部屋よりは余程広かった。屋敷の他の場所と同じように、華美さはなくとも調度品には温かみと品がある。先日リェスが「部屋なら沢山余っている」と話していたのをコハクは覚えていたが、改めて与えられるとなると待遇の良さにやはり少し驚いた。それよりも驚いたのは、ヒスイの荷物の少なさであったが。
「え、こんな綺麗な部屋使っていいんですか……」
「構わない、まだ余っているくらいだ。普段は使っていない部屋の掃除が大変でな……正直、誰か住んでもらった方がありがたい」
どうも家政婦を雇っているわけではないらしい。ということは、この屋敷の家事一切は彼女の仕事なのだろう。確かに、ここでリェス、メノウ、オニキス以外の者は一人も見かけなかった。メノウはリェスと関わりがあるのは自分とオニキスだけだと言っていたが、本当に彼女ら以外に人自体が居ないらしい。理由は分からないが転移水晶でしか出入りできないような場所なのだ。そうそう他人を入れるわけにはいかないのかもしれない。先日の、住み込みを求めるリェスの発言に対するメノウの反応からしても、自分達は相当特殊な立ち位置なのだろうと思う。
「せやろなぁ、こんな広いと……これからはウチも手伝うからな」
「あっ、オレもやりますから、掃除でも何でも言ってください!」
「すまない、助かる」
二人の言葉にメノウは頬に微笑を乗せる。続いて厨房や風呂、その他諸々の共同スペースに案内され、いずれも自由に使っていい旨を告げられた。リェスとメノウの部屋の場所も教えてもらい、次いで彼女は渋々と言った様子でオニキスのそれも教える。歩きつつ話してはいるが、実際に足を運ぼうとしているわけではないようだった。
「しかし、あまり用はないと思うぞ。アレから話し掛けられることもないだろうし、アレはアレでやることが……」
やること、と口にした瞬間言葉が止まり、瞳が思案に染まる。考えているというよりは忘れていたことを思い出そうとしているように見えたが、すぐにその色は掻き消えた。
「……いや、やることがあるからな。ああ、別に話し掛けるなと言うわけではないぞ」
同居をしているというのに、嫌悪とまではいかないものの好意が感じられないその口振りにコハクとヒスイは密かに顔を見合わせる。メノウはそれに気付いたようで、付け足すように言葉を重ねた。
「別に彼が嫌いなわけではない。ただ……」
悪意や冷たさというよりは、拗ねたような口調で。
「……どことなくいけ好かないだけだ」
その内容と深い理由がありそうではない雰囲気に「そんな理不尽な」と思わず突っ込みを入れたくなったコハクとヒスイ。しかし、
「特に、リェス様への無愛想な態度」
……そう続けられ、今までの彼女とリェスの様子を思い出し納得した二人だった。