Story.13 アリエタの夜
(……自分の心配しろよ)
「――さっきっから煩せぇんだよガキ共!」
突如出された怒声に、微かに目を見開くハール。フェスタへ注意が向くあまり、暫しの間彼らの存在は思考の外へと追いやられていた。怒鳴られつつ、正直キレられても仕方がないなどと思ってしまった。どのような場だろうと、存在を無視して話――というか喧嘩――をされれば、いい気はしないものである。せっかくのところだったのに、興醒めだったに違いない。同情はしないが。
「テメェがコイツの何だろうが知ったことじゃねぇよ! とっとと出てけ! でねぇと――」
「…………何だよ」
不意に空気が色を変えた。フェスタの周りにいた数人が鞘に手をかける。携帯水晶ではない。買う金があるなら放蕩に費やしたいということもあるだろうが、こういった界隈に属する人間は携帯水晶より鞘を好む傾向がある。顕現する際の一瞬の時間差が命取りになるからだ。彼らは常人より、ある意味では狩人よりも死に近い場所にいる。人間を敵にする方が魔物よりも、遥かに恐ろしい場合も少なくはないのだ。戦闘技術云々もだが――――また、別の部分が。
「……まぁ、確かにオレとお前は無関係だからさ。これからやることは、オレが“勝手にやった”ってことで」
何か言葉を返そうにもその意味を図りかね、唇を結ぶフェスタ。ハールはその様子を気にした風もなく続ける。
「オレに何かあっても気にする必要は一切ないって意味」
「――っ!」
意図を理解しフェスタが反論しようとしたそのとき、風が彼女の頬を掠めた。誰かがテーブルに散らばっていたナイフを投げたのだと気付き背筋が凍り付く。
「避けて……ッ!」
空へ引かれた銀を目で追った先では携帯水晶の赤い光が剣へと姿を変えていた。顕現のタイムラグをものともせず微かな紅光を纏ったまま、正確な動きでナイフの軌道上に構え刀身で弾く。幾つか金属音が響いた。彼らがそれに驚いた一瞬の隙を突いてフェスタは身体を押さえていた手を強引に振り解くと、そのまま腕を振り子のようにし勢いをつけて起き上がり跳躍する。突然の動きに対応が追い付かなかったらしいイーヴォ。彼の肩を踏み台にし、その背後へ着地した。
「この……ッ」
掴みかかろうとする。が、フェスタが振り向くと同時に走る銀の光。彼の腕に赤い線が走っており、彼女の手には賭けに使っていた小型のナイフ。
「――ッ! 糞猫が!」
彼の手を寸での所で避けるが、紐が切られだぶついていた外套の裾が脚に絡み踏鞴を踏む。
「――ああもう、邪魔ですわね!」
フェスタは乱暴に外套を掴むと空へと高く放った。
それが彼らの視界を遮った瞬間、腰に巻いており今まで隠れていたポーチから数本ナイフを取り出し、斜め下に向かって投擲する。数名の叫び。外套が床に落ちたときには、脚から血を流した男が二人床に膝をついていた。
落ちた外套を挟んでその向こうには、投げた分をすぐに補充したらしくナイフを数本指に挟んだままのフェスタが居た。外套を取り去り現れたのは目を引く朱色のワンピース。胸元を細い黄色のリボンで編み上げ、左右に大きくスリットが入っている。皮のウエストポーチを締め、腕にはキモノのような長い袂のついたアームカバー。服と同じ鮮やかなその朱を靡かせハールの方向へ身を翻すと再び投擲する。それは今まさにハールへと斬りかかろうとしている二人に向かい空を裂くと一方の太股に突き刺さり、声とともに床に倒れる音。ほぼ同時にハールは剣を返すと峰で残りの一人を打った。
フェスタはテーブルを離れ少しでも出口に近づくためハールの方へと駆ける。彼の元へと着いたその瞬間振り向き、牽制としてナイフを残党の足元へ数本投げた。
「お前、戦えるのな」
「……護身程度なら」
「――さっきっから煩せぇんだよガキ共!」
突如出された怒声に、微かに目を見開くハール。フェスタへ注意が向くあまり、暫しの間彼らの存在は思考の外へと追いやられていた。怒鳴られつつ、正直キレられても仕方がないなどと思ってしまった。どのような場だろうと、存在を無視して話――というか喧嘩――をされれば、いい気はしないものである。せっかくのところだったのに、興醒めだったに違いない。同情はしないが。
「テメェがコイツの何だろうが知ったことじゃねぇよ! とっとと出てけ! でねぇと――」
「…………何だよ」
不意に空気が色を変えた。フェスタの周りにいた数人が鞘に手をかける。携帯水晶ではない。買う金があるなら放蕩に費やしたいということもあるだろうが、こういった界隈に属する人間は携帯水晶より鞘を好む傾向がある。顕現する際の一瞬の時間差が命取りになるからだ。彼らは常人より、ある意味では狩人よりも死に近い場所にいる。人間を敵にする方が魔物よりも、遥かに恐ろしい場合も少なくはないのだ。戦闘技術云々もだが――――また、別の部分が。
「……まぁ、確かにオレとお前は無関係だからさ。これからやることは、オレが“勝手にやった”ってことで」
何か言葉を返そうにもその意味を図りかね、唇を結ぶフェスタ。ハールはその様子を気にした風もなく続ける。
「オレに何かあっても気にする必要は一切ないって意味」
「――っ!」
意図を理解しフェスタが反論しようとしたそのとき、風が彼女の頬を掠めた。誰かがテーブルに散らばっていたナイフを投げたのだと気付き背筋が凍り付く。
「避けて……ッ!」
空へ引かれた銀を目で追った先では携帯水晶の赤い光が剣へと姿を変えていた。顕現のタイムラグをものともせず微かな紅光を纏ったまま、正確な動きでナイフの軌道上に構え刀身で弾く。幾つか金属音が響いた。彼らがそれに驚いた一瞬の隙を突いてフェスタは身体を押さえていた手を強引に振り解くと、そのまま腕を振り子のようにし勢いをつけて起き上がり跳躍する。突然の動きに対応が追い付かなかったらしいイーヴォ。彼の肩を踏み台にし、その背後へ着地した。
「この……ッ」
掴みかかろうとする。が、フェスタが振り向くと同時に走る銀の光。彼の腕に赤い線が走っており、彼女の手には賭けに使っていた小型のナイフ。
「――ッ! 糞猫が!」
彼の手を寸での所で避けるが、紐が切られだぶついていた外套の裾が脚に絡み踏鞴を踏む。
「――ああもう、邪魔ですわね!」
フェスタは乱暴に外套を掴むと空へと高く放った。
それが彼らの視界を遮った瞬間、腰に巻いており今まで隠れていたポーチから数本ナイフを取り出し、斜め下に向かって投擲する。数名の叫び。外套が床に落ちたときには、脚から血を流した男が二人床に膝をついていた。
落ちた外套を挟んでその向こうには、投げた分をすぐに補充したらしくナイフを数本指に挟んだままのフェスタが居た。外套を取り去り現れたのは目を引く朱色のワンピース。胸元を細い黄色のリボンで編み上げ、左右に大きくスリットが入っている。皮のウエストポーチを締め、腕にはキモノのような長い袂のついたアームカバー。服と同じ鮮やかなその朱を靡かせハールの方向へ身を翻すと再び投擲する。それは今まさにハールへと斬りかかろうとしている二人に向かい空を裂くと一方の太股に突き刺さり、声とともに床に倒れる音。ほぼ同時にハールは剣を返すと峰で残りの一人を打った。
フェスタはテーブルを離れ少しでも出口に近づくためハールの方へと駆ける。彼の元へと着いたその瞬間振り向き、牽制としてナイフを残党の足元へ数本投げた。
「お前、戦えるのな」
「……護身程度なら」