Story.13 アリエタの夜
助けてもらって以来、彼とはお互いの話を色々としたが、彼は一度も盗みや裏の仕事を手伝ったことはないらしい。素直にすごいと思う――前に、よく生きてこられたものだと驚いた。
「ごめん、大家さんに何度も頼んでみたんだけど、やっぱり……」
「いいえ、ありがとうございます。無理は言えませんわ」
「姉さんもフェスタと住みたがってるんだけど……一人でやっていくのは大変だろうって」
「まあ……相変わらずリリィさんはお優しいですわね」
リリィは彼と四つほど歳が離れている実姉だ。彼と同じ翠の瞳で、茶色の肩より少し下程度で揺れる毛先は緩く波打っている。左側の前髪を長く伸ばしているせいでそちら側の瞳を見たことはないのだが、それが彼女の穏やかな風貌を損なうことはなかった。
彼女もけして楽とは言えない道のりを歩んできたはずなのだがおっとりしており、獣人としてはやや変わった性格の持ち主だ。その人の好さに不安を覚えることも多々あり、彼の面倒見の良さは姉を支えるために培われたものなのだろうかとフェスタは思う。そして彼の真っ直ぐな心は、常にリリィの優しさに触れていたからこそのものだろうとも。
彼は姉と一緒に人間の宿屋で下働きをする代わりに寝床を提供してもらっているそうだ。客には姿を見られないようにという条件付きかつ、金銭はほとんど受け取っていないらしいが。しかし残飯や古着等使わなくなったものを貰えることがあるようで、一般的な獣人よりは恵まれた環境にあると言える。その環境を勝ち取ったのは、他でもないリリィのお陰である。住み込みの従業員を募っていた宿を見つけた彼女は、大多数の獣人のように媚びへつらうわけでもなく、卑下することもなく、ただ誠実に、ひたすら穏やかに雇ってもらえるように頼んだそうだ。そして何を言われても、笑顔を崩さなかった。宿主もそんなリリィに根負けしたのか、結果として今の状況である。彼は、そんな姉に様々な意味で助けられてきた。
フェスタも置いてもらえないかと二人で頼んでくれたようだが、宿主もそこまで心は広くなかったらしい。実のところ彼ら姉弟への対応を考えれば、親切心で雇っているというよりも“利用している”という表現の方が近いのかもしれない。
「ごめん、大家さんに何度も頼んでみたんだけど、やっぱり……」
「いいえ、ありがとうございます。無理は言えませんわ」
「姉さんもフェスタと住みたがってるんだけど……一人でやっていくのは大変だろうって」
「まあ……相変わらずリリィさんはお優しいですわね」
リリィは彼と四つほど歳が離れている実姉だ。彼と同じ翠の瞳で、茶色の肩より少し下程度で揺れる毛先は緩く波打っている。左側の前髪を長く伸ばしているせいでそちら側の瞳を見たことはないのだが、それが彼女の穏やかな風貌を損なうことはなかった。
彼女もけして楽とは言えない道のりを歩んできたはずなのだがおっとりしており、獣人としてはやや変わった性格の持ち主だ。その人の好さに不安を覚えることも多々あり、彼の面倒見の良さは姉を支えるために培われたものなのだろうかとフェスタは思う。そして彼の真っ直ぐな心は、常にリリィの優しさに触れていたからこそのものだろうとも。
彼は姉と一緒に人間の宿屋で下働きをする代わりに寝床を提供してもらっているそうだ。客には姿を見られないようにという条件付きかつ、金銭はほとんど受け取っていないらしいが。しかし残飯や古着等使わなくなったものを貰えることがあるようで、一般的な獣人よりは恵まれた環境にあると言える。その環境を勝ち取ったのは、他でもないリリィのお陰である。住み込みの従業員を募っていた宿を見つけた彼女は、大多数の獣人のように媚びへつらうわけでもなく、卑下することもなく、ただ誠実に、ひたすら穏やかに雇ってもらえるように頼んだそうだ。そして何を言われても、笑顔を崩さなかった。宿主もそんなリリィに根負けしたのか、結果として今の状況である。彼は、そんな姉に様々な意味で助けられてきた。
フェスタも置いてもらえないかと二人で頼んでくれたようだが、宿主もそこまで心は広くなかったらしい。実のところ彼ら姉弟への対応を考えれば、親切心で雇っているというよりも“利用している”という表現の方が近いのかもしれない。