Story.13 アリエタの夜
母は死んだ。
生活する環境が急に変わったせいだろうか、獣人にしても早かったように思える。
父は顔も知らない。母が囲われていた屋敷で下働きをしていたらしい。
彼女は法外の闇市で売られていたところを後の主人に買われ、彼は唯一の楽しみが歌うことだという母に歌手としての教育を行いそのまま囲ったそうだ。母に聞いた話ではかなりの好事家だったらしく、様々な珍品を集める収集家でもあったらしい。他のコレクションのように彼女を愛でたそうだ。獣人の専属歌手など、大陸中を探してもなかなかいるものではない。一般市民からすれば獣人は嫌悪の対象だが、一部の好事家たちにとってはそうでない場合もある。自慢のコレクションだった。
永遠の眠りの間際、母は澄んだ、しかしか細い声で呟いた。
「……ご主人様はね、少し変わっていて、そして、少し素直じゃなかったの。私にとても良くしてくれて、そう本当に、良く……でも、他のコレクションと“違う風”に思っている自分は、きっと許せなかったんだわ……やっぱり彼も、人間だったから」
母が身籠ったと知ったとき、怒ると思っていた主人はただ静かだったという。そして自分を生んで暫くすると、最低限の金銭だけ渡して母に屋敷を去らせた。父はその後すぐに姿を消した。理由は今も分からないし、知りたいとも思わない。
「私が獣人じゃなかったら、違っていたのかしら……」
母の最期の言葉だった。