Story.13 アリエタの夜

 ――街を歩けば聞こえてくる。

「あそこの角のお家、昨晩盗みに入られたんですって……なんでも獣人だったとか」
「嫌ねぇ、怖い。この前も旅人が盗難に遭ったって騒いでいたわ。それも獣人だったんじゃないかしら」
「どうせ獣人でしょ。だって獣人ってだけで……ねぇ」
「たまに雇ってるところもあるみたいだけど、何考えてるのかしら」
「本当よね、どんなに頼まれても絶対家になんて上げないわ」

 唾棄の言葉。

 耳を塞ぐ。

 どこからか感じる嫌悪の視線。

 それが実際に向けられているのか、錯覚なのか。逃れるように、フードを目深く被る。

 心の隙間に入り込んでくる悪意に侵されぬよう、しっかり閉じなければ。
 
 さもないと――――

「さっき店の裏で人が死んでたんだってよ」
「何だって!?」
「つっても獣人だけどな」
「……驚かすなよ。害獣が一匹減ったってだけだろ」
「それが、自分の耳切り落として血塗れだったとか」
「何だそりゃ、気でも狂ったのか?」

 えぇ、えぇ、気も狂うでしょうよ。
 無条件に生きることを否定される、こんな世界なら。
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