Story.13 アリエタの夜
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「良かったぁ、なんか大切そうにしてる」
水鏡に映るのは、海を背景にペンダントを握りしめる少女と少年。
「あれじゃあきっと渡してくれないね」
それを見つめる彼女が指先で水面をはじけば、波紋が広がった。
「簡単に手放されたら、どうしようかと思っちゃった」
水に濡れた指先を下ろす。その桜貝のような爪から水滴が落ちた。
「もしそうだったら、貴女自身がそうなってたよ」
静かに瞼を閉じると上を向く。肩にかかるかかからないか程度の薄桃花の髪が、窓から差し込んだ光に透けた。誰も聞いていない呟きが、部屋に響く。
「……始めちゃった。止められないね」
その言葉は、誰に向けられたものなのか。逆光に浮かぶ影はくすくすと笑い続け、その肩が小さく震える。
緑の瞳の縁には、小さな雫が滲んでいた。
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