Story.11 花雨が包む影、潮風に乗せる想い。
待ち合わせ場所で集合する前に偶然合流した四人は、先程とはまた違う露店街を散策することにした。海岸沿いにあったそれは観光客向けの店という印象を受けたが、今通っている道に並ぶ店は住民が普段生活する上で活用するもののようだった。ゆえに別の街に並ぶものと代わり映えのしない食料品が多く見受けられる。
「ハール、今残金はどのくらいですか?」
イズムはそれらに目を遣り、歩きながらハールに訊く。そして、保存の利く食料を買い足しておきたいのですがと続けた。
「さっきは買わなかったんだな」
「ハールから食料代を貰うの忘れてましたから」
最初から買う気が無かったんだろ、という言葉を飲み込む。一応個人でも多少の持ち合わせはあるが、食料を始めとして一行が共同で使う物を買うための金銭を纏めて預かる金庫番の役目をしているのはハールだ。話し合いの結果なのだが、随分と面倒な役をなすりつけ……いや、押し付け……いや、重要な役割を仰せつかったハールである。
「あー、幾らぐらいだったかな……」
携帯水晶から一行の財産が入った袋を取りだそうと触れようとする、と。
「……うわッ!?」
身体の右側に衝撃。人が通った瞬間、身体を思い切りぶつけられた。急いでいたのか、その小柄な人物はそのまま去っていく。
「ハール大丈夫?」
「あぁ……」
腕を押さえるハール。だが痛みはすぐに引いたらしく、その腕は下ろされた。「大したことないけど、顕現失敗し――……、」
声に出しこそしなかったが、微かに息を呑むのが聞こえた。ハールにしてはその行動が珍しく感じたので、三人はどうしたのだろうかと彼に視線を送る。
「……無い」
主語やその他諸々を省略し過ぎだ――……などという台詞を口にする者は誰も居なかった。それは、それでも理解せざるを得ない状況だったから。……または、余裕が無かったからとも言えるが。
「……アイツ……!」
全財産を入れた革袋を要求しても、携帯水晶が反応しない。
――それが意味するのは、『携帯水晶に革袋は入っていない』ということに他ならない。
先程それを要求したときは、確かに携帯水晶は反応した。しかし、二回目は反応が無い。
つまりはその短い間に起こった出来事が原因。
結論は一つ。そしてその打開策は――。
瞬間、ハールは地面を蹴り、走り出した。
「ハール君っ!?」
「まだ走れば間に合うかもしれない!」
あの人物が、袋を顕現途中の赤い光のまま強引に毟り取っていってしまったとしか考えられない。
今は彼女達とはぐれるより、このまま金銭を奪われたままにする方が後々に支障をきたす。もしはぐれたとしても、どうせ宿はとってあるのだからそこで落ち合える。
だが、金銭は使われてしまったら証拠も何も残らない。こちらがいくらそう証言したとしても、それを確かな証拠とともに、明確に証明出来なければまるで意味がない。そうなってしまったら完全的にアウトだ。 だが、あの小柄な盗人はまだそう遠くには離れていない――……
まだ、間に合うはずだ。
To the next story……
up:2011.08.28
「ハール、今残金はどのくらいですか?」
イズムはそれらに目を遣り、歩きながらハールに訊く。そして、保存の利く食料を買い足しておきたいのですがと続けた。
「さっきは買わなかったんだな」
「ハールから食料代を貰うの忘れてましたから」
最初から買う気が無かったんだろ、という言葉を飲み込む。一応個人でも多少の持ち合わせはあるが、食料を始めとして一行が共同で使う物を買うための金銭を纏めて預かる金庫番の役目をしているのはハールだ。話し合いの結果なのだが、随分と面倒な役をなすりつけ……いや、押し付け……いや、重要な役割を仰せつかったハールである。
「あー、幾らぐらいだったかな……」
携帯水晶から一行の財産が入った袋を取りだそうと触れようとする、と。
「……うわッ!?」
身体の右側に衝撃。人が通った瞬間、身体を思い切りぶつけられた。急いでいたのか、その小柄な人物はそのまま去っていく。
「ハール大丈夫?」
「あぁ……」
腕を押さえるハール。だが痛みはすぐに引いたらしく、その腕は下ろされた。「大したことないけど、顕現失敗し――……、」
声に出しこそしなかったが、微かに息を呑むのが聞こえた。ハールにしてはその行動が珍しく感じたので、三人はどうしたのだろうかと彼に視線を送る。
「……無い」
主語やその他諸々を省略し過ぎだ――……などという台詞を口にする者は誰も居なかった。それは、それでも理解せざるを得ない状況だったから。……または、余裕が無かったからとも言えるが。
「……アイツ……!」
全財産を入れた革袋を要求しても、携帯水晶が反応しない。
――それが意味するのは、『携帯水晶に革袋は入っていない』ということに他ならない。
先程それを要求したときは、確かに携帯水晶は反応した。しかし、二回目は反応が無い。
つまりはその短い間に起こった出来事が原因。
結論は一つ。そしてその打開策は――。
瞬間、ハールは地面を蹴り、走り出した。
「ハール君っ!?」
「まだ走れば間に合うかもしれない!」
あの人物が、袋を顕現途中の赤い光のまま強引に毟り取っていってしまったとしか考えられない。
今は彼女達とはぐれるより、このまま金銭を奪われたままにする方が後々に支障をきたす。もしはぐれたとしても、どうせ宿はとってあるのだからそこで落ち合える。
だが、金銭は使われてしまったら証拠も何も残らない。こちらがいくらそう証言したとしても、それを確かな証拠とともに、明確に証明出来なければまるで意味がない。そうなってしまったら完全的にアウトだ。 だが、あの小柄な盗人はまだそう遠くには離れていない――……
まだ、間に合うはずだ。
To the next story……
up:2011.08.28