Story.1 白の狂気

 光が、弾けた。

 続いて鈍い音と、甲高い魔物の悲鳴。

 その白い輝きが魔物へと恐ろしい速さで向かい、樹へと叩き付けたのだった。赤黒い跡を残して樹からずるずると崩れ落ちる魔物。濁った眸にもはや生気は無く、口角には赤い泡が溢れ、ぽたぽたと血液が滴り落ちる。
「な……ッ!?」
 目の前で、たった今斬り損ねた魔物の辿った思わぬ末路に目を見開く。その「光が発せられた」……いや、その「光を発した」のは――――

「……嘘、だろ」

 少女は細く白い指先を魔物に向かって綺麗に伸ばし、未だ光の余韻が残るその手に再び輝きを創り出す。
「……ふ、……ふふっ……」
 歪められた、口元。可憐な唇から紡がれるは、狂喜の笑い。
「ふふふふ……っ!」
 細められた、瞳。輝く金色の双眸に宿るは、狂気の光。


「――――死ね」


 純白の光を纏った右手を、優雅な動きで空に流す。すると放たれた光芒は鎌鼬の如く魔物を斬り裂いた。それは魔物達に断末魔の悲鳴さえ、上げることを許さぬ速さ。
 煌めく風に煽られ、頭に飾った花冠がはらりと地に落ちた。
 舞い散る血の華。その花弁を恍惚と見つめ、足元の花冠には気を留めること無くその上を通り、数歩進む。
「残り、は……」
 彼女は何気ない、どこまでも自然な動作で光を走らせた。
 あの無邪気な少女とは思えぬ凄艶な目付きに晒された残党が凍りつく。生命の危機を、野性の本能が告げる。しかし、彼等は動かなかった。
 
 ――否、動けなかった。

 身体を彼女の目の届かない何処か遠くに運んでくれる四本の足が、無かった。先刻の斬撃で、胴体から下が刎ねられていたのである。
 地面に倒れ伏し、哀れとしか形容のしようがないその姿に、少女は容赦ない残虐な行為を下す。
 白光を操って数頭の魔物を宙に吊し上げると、輝きで形成した刄で少しずつ、少しずつ痛め付けてゆく。
 少しずつ、少しずつ。 
 殺さないように。一秒でも、苦しみを味わわせるように。
 少しずつ、少しずつ。
 滴る血の一滴一滴を愉しむように。

 優美に動くしなやかな白い腕。
 悦びに輝く黄金の瞳。
 背筋が凍りつく程に妖艶な表情。
 光の粒子を乗せる風に翻る純白の衣服。

 絢爛豪華な血の花弁を纏い、殺戮の舞いを踊る姿は、芸術品と言わざるを得ない完全なる『美』――……。

 ただ。

 それで片付けられる事態ではない。行われているのは、『殺し』なのだから。それも、身を守る為ではなく、快楽を得る為の。
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