Story.11 花雨が包む影、潮風に乗せる想い。
山の中腹で、これから行くべき街を見下ろしながら休憩をとっていた一行。この調子で歩いて行けば、あと一、二時間程度で、『行くべき街』――……『アリエタ』に着くだろう。
アリエタはリィースメィル最大の貿易港である。昼夜関係無く往来する人々の活気と喧騒に溢れており、首都を凌ぐ経済の中心地と言っても過言ではない。そして国内有数の観光地でもある主要都市だ。
アリエタが観光地となる所以は、目の前に広がる美しい大海原や、この山を始めとした雄大な緑の景観のせいだけではない。
「あ……! ほら見て見て! また花びら!」
リセが風に乗ってやって来た薄く柔らかい花の欠片に手を伸ばすと、それはふわりと彼女の手に収まった。薄桃花の楕円形で、先端に小さく切り込みのようなものが入っている指先ほどの小さな花弁。
その生まれた元は、アリエタに入る手前の高台に太古より根を張る『千年樹』。
『千年樹』は聖戦はもとより、あの百年戦争の戦火すら逃れ生き残った巨木であり、名の通り千年生きているかもしれない可能性を秘めているのだ。聖典にもしたためられている神樹でもあり、そのなかでは世界樹から分かれ出でている『枝』の一本として扱われている。
まるで空を掴もうとしているかのようにしなやかな枝葉を伸ばしている『千年樹』。これこそがアリエタ観光の目玉である。その最大の特徴であり人々を惹きつける理由は、一年中、かの花を咲かせ続けているということ。何百、何千年も昔から、毎日、一分一秒休むことなく、美しい薄桃の雨を降らせ続けているのだ。例え神話に興味が無くとも、その光景は誰の目にも壮麗に、幻想的に映り、アリエタを去った後も人々のなかに残り続ける。
「そろそろ行くか」
他三人より地面の切り立った場所で空を舞う花弁と戯れるリセの後姿を横目に、微かに微笑むハール。アリエタから多少距離のあるこの山にさえ、樹の大きさ故にその花びらは風に乗ってやってくる。青い空に薄桃の華彩を散らすその光景は、『千年樹』本体のように壮大で見る者を虜にするような麗靡さは無いものの、それとはまた違う儚い美しさがあった。
「りょーかいっ」
「そうですね」
同意し、リセに目を向けるフレイアとイズム。
――そして、彼女は風に踊る花の破片を追っていた腕をを下ろすと、振り返った。
「うんっ」
銀の髪から、光を散らして。誰よりも無邪気な少女は、誰よりも綺麗に笑った。
アリエタはリィースメィル最大の貿易港である。昼夜関係無く往来する人々の活気と喧騒に溢れており、首都を凌ぐ経済の中心地と言っても過言ではない。そして国内有数の観光地でもある主要都市だ。
アリエタが観光地となる所以は、目の前に広がる美しい大海原や、この山を始めとした雄大な緑の景観のせいだけではない。
「あ……! ほら見て見て! また花びら!」
リセが風に乗ってやって来た薄く柔らかい花の欠片に手を伸ばすと、それはふわりと彼女の手に収まった。薄桃花の楕円形で、先端に小さく切り込みのようなものが入っている指先ほどの小さな花弁。
その生まれた元は、アリエタに入る手前の高台に太古より根を張る『千年樹』。
『千年樹』は聖戦はもとより、あの百年戦争の戦火すら逃れ生き残った巨木であり、名の通り千年生きているかもしれない可能性を秘めているのだ。聖典にもしたためられている神樹でもあり、そのなかでは世界樹から分かれ出でている『枝』の一本として扱われている。
まるで空を掴もうとしているかのようにしなやかな枝葉を伸ばしている『千年樹』。これこそがアリエタ観光の目玉である。その最大の特徴であり人々を惹きつける理由は、一年中、かの花を咲かせ続けているということ。何百、何千年も昔から、毎日、一分一秒休むことなく、美しい薄桃の雨を降らせ続けているのだ。例え神話に興味が無くとも、その光景は誰の目にも壮麗に、幻想的に映り、アリエタを去った後も人々のなかに残り続ける。
「そろそろ行くか」
他三人より地面の切り立った場所で空を舞う花弁と戯れるリセの後姿を横目に、微かに微笑むハール。アリエタから多少距離のあるこの山にさえ、樹の大きさ故にその花びらは風に乗ってやってくる。青い空に薄桃の華彩を散らすその光景は、『千年樹』本体のように壮大で見る者を虜にするような麗靡さは無いものの、それとはまた違う儚い美しさがあった。
「りょーかいっ」
「そうですね」
同意し、リセに目を向けるフレイアとイズム。
――そして、彼女は風に踊る花の破片を追っていた腕をを下ろすと、振り返った。
「うんっ」
銀の髪から、光を散らして。誰よりも無邪気な少女は、誰よりも綺麗に笑った。