Story.10 幕間


 扉が閉まる音を聞くと同時に視界に広がったのは、中央に二階へと続く階段があるエントランス。ある程度の広さはあったが過度な装飾はなく、木製の扉や窓枠などに模様が彫ってある程度であった。
 それらを横目にまっすぐに歩いていき、そのまま階段を登っていく。
 手すりにも同系統の彫刻がされており、繊細ではあるのだが、華美さよりも温もりを感じさせるようなものであった。
 外観を含め、建物に揃っている条件自体はやはり地方貴族のそれなのだが、雰囲気は全く派手さや嫌みを覚えるものではなかった。同じ感想を持ったらしく、美姫に続く庶民二人は目配せし合う。置かれている状況が最も似通っている者同士であるため、どうしてもお互いの存在を精神安定として頼ってしまう。
 別段長くもない階段を上り終えると、左右に別れた廊下。そこを左折した。いくつも扉を通り過ぎるが、一階と同じく木で作られており、彫刻が施されていた。
 と、前方に白い人影が現れた。影なのだから黒ではないかと思うだろうが、『白』かったのである。それもそのはずで、もとより肌の色素が薄く、髪も銀でその上白衣まで羽織っていたのだ。白くも見える。
 別にリェスやメノウの他に人が居てもおかしくはない。会釈をして通り過ぎようと思う。
 先頭で歩いているリェスがその男性すれ違――……
「オニキスお兄ちゃん」
 ……――わなかった。
 その瞬間に、彼女はオニキスと呼んだ青年の手を片手でしっかりと掴んでいた。彼は無表情で振り返る。
 彼女は笑顔のまま、手を繋いで離さない。突然の出来事に、二人は勿論、メノウも足を止めた。
「良かった、呼びに行く手間省けちゃったー。オニキスお兄ちゃんにも着いてきてもらうね」
 命令口調でもない、威圧感もない。なのに、彼女は相手に有無を言わせない力を持っている、気がする。彼は一瞬リェスの顔を見る。彼女はにこりと笑った。
「……」
 諦めたのだろうか、小さく溜め息をついた――……ように見えた。それすら微かなもので、確かには感じられなかった。リェスは満足そうに笑むと、ようやく彼の手を離す。そうして一人加え、また歩き出す。
 すぐに目的の部屋には着いた。リェスはその扉の前で止まると、ノブを回してドアを開ける。
「どうぞ」
 笑顔で四人を促して、その中へと招き入れる。彼女以外の全員が室内に足を踏み入れると、最後に自分が入り、後ろ手でドアを閉める。
 カチャリという鍵の音が、やけに大きく響いた。
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