Story.9 sugarcoat


     †

 ――一体全体、何がどうなってんだ。
 ハールは複雑な心境で木々の間を歩いていた。思わず、深い溜め息を零す。
 何がどう、とは言っても、状況が分かっていない訳ではないのだ。分かっているからこその溜め息だ、とも。
 とにかく悩んでいても仕方がない。彼女から訊けばいいだけだ。だが、何を訊くのかも、分からない。まず――……もう一度、会えるだろうか。もう一つ、溜め息。
 思い返せば、彼女の言動はいつもと違う方向に針が触れることが時折あった。リセとイズムが魔法の練習から帰るのを待ちながら二人で昼食をとった時、そして洞窟での戦闘時の彼女の態度は、明らかにおかしかった。
「どうしろってんだよ……」
 自分はフレイアが何か抱えていることを察していたではないか。それを知った上で、話してくるのを待つという姿勢をとっていた。それは彼女への最良の対応ではなかったというのか。ならば、こちらから訊けば答えてくれたか? いや、かわされたに違いない。もっと強く言えば良かったのか? あのとき触れて強く問い詰めることを躊躇わなければ、今夜の事態は免れたのか?
 答えは恐らく否だ。あの状態のフレイアへの対応に、正解というものがあったとは思えない。
「……心配かけんじゃねぇよ、あの馬鹿」
 今彼女に必要なのは、正解でも不正解でもない。その二つの以外の何かであるということだけが、今ハールが解る唯一の事実だった。
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