Story.9 sugarcoat

     †

 宵闇が滴る森を、少女は早足で進んでいった。彼女自身の脚の感覚としては、早く先へ、先へと急かしているように軽いような、鉛のように重いような、そんな心地だった。
 しかしその足取りは迷いを感じさせないものだった。それは本当に迷いが無かったのか、迷いを、無いものとし考えない為のものなのか。
 知らずに固く結ばれていた唇から漏れた、小さな吐息。いつの間にか、鼓動が早くなっていた。呼吸を忘れていたらしい。歩く速度に見合った酸素が供給されていなかったようだ。
 深く息を吸い、歩を弛めた。あることに気付き、まるで見えるはずのないそれが見えるかのように、その方向へと目を向ける。

 ――――水の音が、した。
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