Story.9 sugarcoat
アタシの周りには、誰もいない。
物理的な問題じゃない。もっと、精神的な話。
『あの女』の側についた妹。
『あの女』。
『あの女』に仕えて、アタシの身の回りの世話をする人間、『あの女』に雇われて、 彼らの言うところの『教養』とやらをアタシに叩き込む人間。
そして夜毎現れる、反吐が出る程上品な微笑みを湛えた、人間の顔した悪魔達。
アタシに近づいては、アタシじゃなくて、アタシの背後(うしろ)に在るモノを欲しがる。
アタシの周りで、キレイで甘美な虚飾の言の葉が舞う。
きらきら、ひらひら。
――ぼとり。
悪魔達の唇から零れるそれらは、アタシを誘おうと舞うだけ舞って、睨め付けてやると、途端に磨き抜かれた大理石の上に墜ちて、腐っていく。
アタシはそれをみて、何も感じない。そんなの、とうの昔から慣れている。言の葉が舞い落ちる瞬間にちらつく『裏側』を、みつけること。
アタシ自身をみてくれるひとなんて、誰もいない。アタシを理解ってくれるひとなんて、誰もいない。
それでもいいと思ってた。ただ一人隣に居てくれたら、それで。
――……『アイツ』さえ、居てくれたら、それで。