Story.8 古の殺戮者
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四人は不気味な『音』を辿り、さらに奥へと進んでいった。代わり映えのない規則的な暗い水音と、鐘乳石だけが広がっている。今までと違うことと言えば、ぼんやりと発光する苔が見られるようになってきたため、かなり視界が良くなったというところか。そのおかげで魔法の明かりは必須という状況ではなくなったので、魔力の節約も兼ね二人はそれを消している。そしてもう一つ。歩を進めるごとに、空気中に溶ける『何か』が濃くなっているのが、まるで実際に目に見える色がついているかのようにリセにも分かった。それが邪気や悪気といった本能が反応するものなのか、それとも自分の緊張から感じるものなのかは分からなかったが。ちらりと、斜め前を歩いているハールの顔を窺う。いつも通りの顔だった。
(……怖くないのかな)
当然だが、彼と比べれば踏んでいる場数や経験等、とにかく色々なモノが自分には足りない――足りないどころか、“無い”のだ。
(……やっぱり、私とは違うのかな)
こんなひと達と、これから共に歩んで、同じ場所に立とうとしているのだ。自分も、いつかはなれるのだろうか。
「……何?」
「えっ……、あ」
ハールがリセの視線に気づいたらしくこちらを向く。こうも長く見つめられればさすがに気付くだろう。いや、長かろうと短かろうと、視線だけで気付けるのか、と言った方が正しいのかもしれない。自分では、どんなに長く見られていたとしても恐らくこうはいかない。経験と、生きてきた環境――生き方自体がそうさせたのか。焦燥にも似た形容しがたい感情が、緊張が高まるのと同時に輪郭を帯びようとする。
「うっ、ううん……何でもない」
弾かれたように顔を背ける。彼からも、かたちを持たない別のものからも。
「リセさん、大丈夫ですか? 心配なら今からでも引き返せますよ?」
「うん、へーき……」
イズムの気遣いにも、曖昧な笑みしか返すことができない。
(イズム君も、戦えるからそんなことが言えるのかな……)
心の内で慌てて首を振り、一瞬でもそのような思考に至ってしまった自分を責めた。そんな訳がない。彼の言葉は、彼自身の優しさからきている。分かっているはずなのに、何だか、皆が自分とは別の世界の人間にすら思えてきてしまった。邪魔になってしまうかもしれないという不安が膨張していく。胸が苦しい。まだ自身はかろうじて魔法が使えるという程度で、周りは人並みよりできる者ばかりなのだということは分かっている。今すぐ追いつけるはずはない。だから少しでも追いくため、ここまで来たのではないか。分かっている。分かっているけれど――――感情は、理屈ではないのだ。しかし、自らの未熟さを周囲と比べて、勝手に卑屈になるなんて馬鹿げている。確かに、自分にはまだ有るものより無いものの方が遥かに多い。だが、無いなら作ればいい、得ればいい。
(やれるだけ……やるんだ)
すると、一行の足が止まった。
「最深部……ですね」