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邂逅の夜
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2人が会場に背を向けて歩み出した矢先。
「待つえ!」
甲高い声がオークション会場の全体に響き渡った。
ざわついていた観客達の声が一斉に静まる。
クロコダイルは足を止め、振り向いた。
そこに立っていたのは、宇宙服のような衣装に身を包み鼻水を垂らした醜い男。
_____天竜人、チャルロス聖。世界貴族ロズワード家の1人。
「神」を自称する天竜人の中でも、トップクラスに下劣で最低な人物であった。その笑みは砂よりも汚れていた。
「そいつはわちしの妻にするえ~。置いていくえ。」
場内にいた誰もが息をのむ。
「タダでとは言わないえ。こんなみすぼらしい女でも800億ベリーは出してやるえ~!」
ねっとりとした気持ちの悪い声。
「むふーーーん。早くするえ。」
チャルロス聖は懐から拳銃を取り出し、クロコダイルへと銃口を向ける。ダリアの肩がびくりと震える。
クロコダイルはゆっくりと顎を上げ、煙を吐き出し睨む。
その眼光は刃のように鋭く、空気が冷たく凍るような冷たい視線。
「てめェ、今なんつった?」
チャルロス聖は気付かぬ素振りで、よだれを垂らしながら笑った。
「この女はええ顔しとるえ~。神であるわちしの妻にしてやること、ありがたく思うえ~。」
クロコダイルは指先に砂嵐を発生させる。足下の床が軋み、乾き、塵芥と化してゆく。
辺りの空気は張り詰め、彼が一歩踏み出すたびに周囲の湿気が吸い取られ、息をするのも苦しくなっていく。
「……神だァ?」
低く、地を這うような声が響く。
「聞こえんかったかえ~?そいつはわちしの妻にすると言ったんだえ~。」
チャルロス聖は下品な笑みを浮かべながら、手を振り上げて喚いた。
その瞬間、クロコダイルの表情が凍った。
その目は、まるで獲物を捕らえた鰐のように鋭く光る。
「どうやら、死にてぇようだな…。」
葉巻の火が赤く光り、不気味に笑う。
次の瞬間、彼の姿が消えた。
そして一瞬にして、チャルロス聖の首を素手で強く掴んでいた。
掴まれた瞬間空気が鳴る。
「ひ、ひぃ!?なんのつもりだえ~!わちしに逆らうのかえ~?!」
彼の手から拳銃が滑り落ちた。
その声が悲鳴に変わる間もなく、砂のように皮膚が渇き始めていく。
「や、やめるえ~ぇ!あ、あ” あ”ぁぁぁっ!」
水分が吸い上げられる音が辺りに響いた。肉が縮み、皮が張り付き、チャルロス聖の身体はあっという間に萎んでいく。
ひといきの間に、”神”はただの干からびた人形になった。
クロコダイルは無表情で手を離す。指先から白い粉のように崩れた砂が舞い落ちる。
「てめェらの”神”はこの程度だ。」
葉巻を咥え直し、冷たく言い放つ。
「命は砂より軽い。」
観客たちは息を呑み、誰も動けなかった。誰もが息を呑み、チャルロス聖の干からびた肉片を見て凍り付いていた。
ただひとり、ダリアだけが震える指先で口を覆い、彼を見上げていた。
その沈黙を切り裂くようにクロコダイルの靴音が鳴り響いた。
ゆっくりと、確実に、支配者の足取りで。
「…あの天竜人をミイラに…。」
「信じられねぇ…。」
「あいつ、元七武海のクロコダイルじゃねえか!?」
ふたたび会場がざわつき出す。
ダリアを繋いでいた鎖はすでに砂に変わって消えていた。
彼は彼女の身体を両腕で軽々と担ぎ上げる。観客のどよめきが恐怖の色を帯び始めた。
クロコダイルは葉巻を咥えたまま、無表情で視線を巡らせる。
「道を開けろ。…俺は今、虫の居所が悪ィんだ…。」
乾いた声で言い放つと、その一言で群衆が左右に割れた。小さく悲鳴を上げる者も、震えて崩れ落ちる者もいた。
誰も彼の前に立ちはだかる者はいない。
床にはチャルロス聖の肉塊が転がり、散った砂粒が散らばっている。
その中をクロコダイルはゆっくりと歩く。足下に水気はなく、彼の支配する乾いた世界だった。
ダリアの意識は朦朧としていた。彼の肩越しに見える光景は、どこか夢のようで現実感が無かった。けれど、確かに感じた。その腕の強さと、心臓の鼓動。
外に出ると、冷たい夜風が肌を撫でた。
クロコダイルは自身の船、バロック・ギュスターヴ号へ向かいながら、煙を吐く。
「安心しろ。もう誰にも触れさせねェ…。」
その声色は、あの日の夜の街で出会った男の片鱗が微かに残っていた。
