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邂逅の夜
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――シャボンディ諸島、泡に覆われた街。
華やかな外見の裏で、最も醜く、冷たい取引が行われる場所。
巨大な泡のドームの中、“人間屋”の競売所。
ステージには鎖で繋がれた者たちが並び、貴族たちが退屈そうに値札を吊り上げる。
笑い声と金属音、そして悲鳴。
人間が「商品」として扱われるその場の空気は、潮よりも重かった。
――ダリアもまた、その列の中にいた。
黒と青の髪は乱れ、肌には水を封じる海楼石の枷。
“ナミナミの実”の能力者として、政府と天竜人、海賊の全方位から狙われた末の結末。
司会の男がマイクを握り、唾を飛ばして叫ぶ。
「次の出品はぁ――なんと悪魔の実の能力者! “水”を生み出す女!世界を滅ぼす力を持つ、“ナミナミの実”の使い手でございます!」
観客席がざわめく。
ガラス越しに見下ろす天竜人が退屈そうに扇をあおぎ、口を開く。
「ふむ……肌の艶がいいえ。あの女、わちしの庭の噴水に飾っておくえ。三億だえ~」
「じゃあ七億だえ!」
「十億ベリーだそう」
「十五億だ!」
笑い声が響き人々が競り合う。
ダリアの唇は青ざめ、視線を伏せたまま震えていた。
喉は乾いている。
水を生む力を持ちながら、いまの彼女には一滴の水も生み出せない。
――その時。
観客のざわめきに混じって、別の声がした。
低く、乾いた声。
「……五百億だ」
会場が一瞬静まる。
司会の男が慌てて顔を上げる。
「ご、五百億……!? ど、どちら様で――」
「名乗る義理はねェ。……砂を扱う商人だ」
その声に、ダリアの身体がぴくりと反応する。
乾いた風の匂い。
記憶の奥底、乾いた街と灼けた砂の中で聞いた声。
「……あのときの……?」
目を上げたその先、黒いコートの男が薄暗い観客席の奥から立ち上がる。
葉巻の煙が、天井に向かってまっすぐ伸びていた。
司会は狼狽しながらも叫ぶ。
「五百億! 五百億で落札ですッ! 買い手は――砂の商人様ァァッ!」
クロコダイルは無言でステージに歩み寄り、袋を机に叩きつける。
ざらりと音を立てて、金貨と札束が床に零れ落ちた。
その瞬間、海楼石の枷が砕け、外れる。
観客が悲鳴を上げる中、クロコダイルはダリアを見下ろし、低く言い放つ。
「……二度と、クソみてぇな値段つけられてんじゃねェ」
冷たい声音なのに、ダリアの胸は痛いほど熱かった。
彼は振り返らず、ただ言葉を残す。
「立て。……行くぞ」
――乾いた砂と、封じられた水が再び出会う。
泡の街の奥で、運命の再会は静かに始まった。
