このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

とうらぶlog

 
 歌仙、と掛けられた声に振り向き目を見張る。
 声を掛けたのは最近本丸へ来たばかりの石切丸で。
 少し困ったように笑う彼の腕には体格差のせいか一層小さく見える彼らの主が最早見慣れてしまった状態で横抱きに抱えられていた。
「手入部屋の前で倒れているのを見つけてね」
 そう言われ、歌仙は納得したようにああ……と呟く。
 確か数刻程前に出陣していた部隊が手酷くやられて戻ってきたと聞いたような気がする。
 終日の内番業を命じられ本丸から離れていた歌仙の耳にはそこまでの情報は入ってきていなかったが。なるほど、どうやら審神者がこうなってしまう程度には手痛い被害だったらしい。
「それで、つい連れてきてしまったのだけど」
 この後はどうすればいいのかな?と苦笑する石切丸に歌仙は考え事を一旦打ち切り、一先ず手近な部屋に布団を用意しようと言って本丸に不慣れな刀剣を先導して歩き始めた。


「彼女は、いつも“ああ”なのかい?」
 起きる気配のない主を布団に寝かせやれやれと一息ついたところで石切丸がそう口にした。
 一番の古株である歌仙を始め、それなりに審神者との付き合いが長い刀剣にとって今日のような事は日常茶飯事である。
 しかし新参の石切丸にとっては驚きの連続だったようで、歌仙が「今日はまだマシなほうだよ」と言ったことにも軽く衝撃を受けているようだった。
 歌仙はそこでふと主の傍らで心配そうに寝顔を見下ろしている石切丸の姿と昔の自分とを重ね、懐かしさに目を細める。
「彼女がこうなったのは、半分は僕のせいなんだ」
 唐突にそう言うと、歌仙は古い記憶を掘り起こすようにして審神者と出会った頃の話を語り始めた。

 × × ×

 初めて歌仙兼定と出会った時の審神者はけして今ほど臆病な女性ではなかった。
 政府から案内役として派遣されたこんのすけに連れられ、一足早く人として顕現していた歌仙の待つ本丸へとやって来た彼女は緊張で固くなってはいるものの真っ直ぐな目をした芯の強そうな女性、という印象を持っていた。
「今思えば、彼女なりの精一杯の虚勢だったんだろう けどね」
 当時の様子を思い出したのか歌仙の顔が珍しいと言ってもいいほど楽しげに綻んでいく。
 互いに簡単な自己紹介をしこんのすけから審神者業についての詳しい説明を聞くと、実際にやる方が分かり易いだろうと実戦形式での演習が始まった。
 それ専用に作られた敵の形を模した質量を持つ立体映像。
 錬度が低く人の体にも不慣れな歌仙はその立体映像相手に重傷を負うことになるわけだが。
「あの時は驚いたよ。彼女、傷付いた僕にいきなり抱きついてきたんだ」
 新品らしい着物が血と泥で汚れるのも厭わずにまるで敵から庇うかのように小さな体で歌仙を抱き締める審神者。
 薄れゆく意識の中で視界に入った彼女の顔が涙と汚れでぐしゃぐしゃだったことを覚えている。
「それからだよ。彼女が、僕たちに対して異常なほど過保護になってしまったのは」
 手入部屋で目覚めた歌仙が最初に目にしたのは自身を見下ろす、それはそれは酷い顔をした主の姿。
 思わず「雅じゃないね」と口をつけば、そんなことはお構いなしとより一層泣きじゃくる小さな審神者。
 その出来事を境に審神者は急激に臆病になっていった。
 誰かが傷つく度に涙を流し、その気疲れからすぐに倒れてしまう程に弱くなってしまった心。
 けれど、それでも彼女が審神者を辞めるということはなく。今日もまた精一杯強がりながら刀剣達を戦場へと送り出していくのだ。

 × × ×

「……なるほどね」
 歌仙の話を聞き終えた石切丸が腕を組みながら天井を仰ぐ。
 今の話で主の行動に合点がいったのか審神者に向けていた表情を優しいものへと変えていく。
「どうやら、私は随分と面白い主の元へきてしまったようだね」
「倒れる度、逆に心配するこっちの身にもなってほしいけれどね」
 そう言って呆れたように息を吐く歌仙にも優しい笑みを向けながら「でも、それだって嫌いじゃないんだろう?」とからかうように言う石切丸。
 図星だったのかうっと声を詰まらせた歌仙が気恥ずかしそうに。
「主には、言わないでいてくれよ」
「わかっているよ」
 そう言いつつも石切丸は内心でやれやれとため息を吐く。
 今の話がほとんど惚気話だったことに彼は気付いていないのだろうか。
「気付いて、ないんだろうなぁ……」
 小さな呟きは丁度よく身じろいだ主の衣擦れによってかき消された。
 過保護な審神者と過保護な近侍。
 どこか鈍い両者の関係がこの先どう移り変わるのか。
 それはまた別のお話で。


[ 2015/06/04 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
38/45ページ