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とうらぶlog

 
 どこまでも続く雲海の先。そこに浮かぶ月を見上げ、手にした書類を握り潰した。
 未だ続く防衛戦は最前線を守る屈強な本丸のおかげもあって一時的に平穏を保っている。
 が、管狐を通して送られてきた報告書には続く襲撃の予告が記され。
 ただでさえ力のない自分が率いる男士達にこれ以上の無理を強いるのかと。想像し、今にも胸が張り裂けそうだった。

「眠れないのか?」
 いつの間に現れたのだろう。軽装姿の山姥切国広が心配そうに眉をひそめて傍らに立っていた。
 その手には浴衣とは不釣り合いな刀が握られていて。おそらく不寝番の為に連日の疲労を押してここまで来てくれたのだろう。
「目が冴えちゃって。薬のせいかな」
 笑って誤魔化そうとはしたが長年近侍も勤めていた最初の一振には全てお見通しのようだった。
 無言のまま深く息を吐くと、傍らの障子戸を開け部屋の奥まった場所に敷かれていた寝床を戸口近くまで引っ張り寄せてから一言。
「寝ろ」
 言われ、理解出来ずに何度も目を瞬かせる。
 次いで足元まで移動してきた寝床へ視線を送り、また山姥切の方へと戻す。
「えっと……」
 言葉の意味は理解出来た。
 ただでさえ脆弱なこの体。こうしてただ立ち尽くし、無駄に体力を削るよりも横になっていた方が幾分かはマシだろう。
 だが山姥切がわざわざ寝床を移動した意図はどうしても分からない。
 と、その思考さえも読まれたのだろうか。
 狼狽え固まっていた体が不意に宙へ浮き上がり、驚く暇もないまま慣れた手つきで布団の中へ収められてしまった。
「やま……」
 言い終わるよりも早く閉ざされた障子。
 そこへ月光に照らされた山姥切の影が薄らと浮かび上がっている。
 しばらく見上げていたそれがゆっくりと下へ降りてきて。障子へ寄り掛かるように座った音がぎしりと空気を震わせた。そして、
「寝てくれ。眠くなるまで、話し相手くらいにはなってやるから」
 そう言った山姥切の影がほんの少しだけ前へ向かって倒れる。
 まだ布を纏っていた時の、照れるとそれで顔を隠していた時の癖。
 それを見て自然と込み上げてきた笑みのまま布団から這い出すと、山姥切の背中へ自分のそれを重ねて寄り掛かる。
「ッ!俺は寝ろと……」
「ごめん。少しだけだけだから」
 もう少しだけ、このままでいさせて。
 そう続けた言葉に山姥切は沈黙で答える。
「……ありがとう」

 きっともう半日もすれば、向かった戦場で傷付くであろう戦友の体。
 それがどうしても避けられない事ならば。今はただ、この不器用な優しさに甘えてしまっても許されるだろうか。
 障子越しに触れた背中から、山姥切の鼓動と熱が伝わってくるような気がして。
 障子へ体を寄せながら静かにそっと目を閉じた。
 

( 2022/04/14 )
参加ログ│#W山姥切と女審神者版60分一本勝負
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