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とうらぶlog

 
 くしゅん!と一つ、小さなくしゃみをして審神者の体が寒さに震える。
 良く晴れた暖かな日。
 絶好の洗濯日和だからと溜まっていた洗濯物を庭に干していた審神者だったが時折吹く風は早くも冬の訪れを告げるように冷えきっていた。
 何か羽織るものを持ってくればよかったと心中で思っていた時、不意に背後から暖かな布を被せられ驚いた口から小さな悲鳴がこぼれ落ちる。
「あ、ごめんなさい」
 次いで聞こえた声に振り向けば審神者のすぐ後ろに申し訳なさそうな顔をした刀剣男士――物吉貞宗が薄手の羽織を手にして立っていた。
「風が冷たくなってきたので、体を冷やさないようにと持ってきたんですが……」
 余計なお世話でしたか?と笑う物吉に審神者は慌てて首を左右に振ってみせる。
「ううん、突然でびっくりしたけどそんなことはないよ。ありがとう、物吉くん」
 言って微笑めば物吉の笑みも途端に明るいものへと変わった。
「よかった!あ、洗濯物を干していたんですね。手伝います!」
 改めて審神者の肩へ羽織を被せると、物吉は洗濯物の入った籠をさっと奪い去りまたもや驚く審神者を余所に次々と籠の中身を物干し竿へと干していく。

 最近本丸へきたばかりの物吉はヒトの役に立つこと、ヒトを幸せにすることを何よりの喜びとする刀剣男士だ。
 実際、いつもにこにこと笑顔を絶やさない彼の存在によって本丸内も以前に増して明るくなったような気がする。
 しかし彼の主である審神者はそんな物吉のことが少しばかり心配でもあった。
 今回のような手伝い程度ならば問題ないのだが彼のヒトの役に立ちたいという願いは戦場でも同じように発揮されてしまう。
 頻繁に仲間を庇って怪我を負い、そのまま重傷となって手入れ部屋へ担ぎ込まれることもしばしばあった。
 それでも彼は「自分は大丈夫」「皆が無事でよかった」と笑い、心配した審神者や仲間の刀剣が何度言い聞かせても「好きでやっていることだから」と言って、臆病な審神者の心をちくりちくりと痛めてしまうのだった。
「……主様?」
「ひゃっ!?」
 思案していた顔を突然覗き込まれ審神者が本日二度目の悲鳴を上げる。
 見れば物吉の手にある籠はすっかり空っぽになっており晴れた空いっぱいに沢山の洗濯物がはためいていた。
「本当にありがとうね、物吉くん」
「いえ、お役に立てて何よりです!」
 そう言って鼻の下を擦る物吉の手にふと審神者の視線が注がれる。
 まだ日が出ているとは言え冷たい風の中で濡れた洗濯物を触っていたからであろう。
 すっかり冷えてしまった物吉の手は指先がほんのりと赤く染まっていた。
 それに気付いた審神者が物吉の手をそっと両手で包み込む。
 そのままはぁ……と息を吹きかければ今度は物吉が驚いて声を上げる番だった。
「あ、主様!?」
 わたわたと慌てる物吉の手をぎゅっと握りながら審神者が「あのね……」と口を開く。
「物吉くんの、皆の役に立ちたいとか、幸せにしたいって気持ちは十分皆に届いてるよ。だから、ほんの少しでいい」
 時々は、自分の幸せも考えてあげて。
 言いながら物吉の手ごと握った手を自身の額へと当てる審神者。
 その頭上からどこか力のない声が降ってくる。
「だい……じょうぶですよ、主様」
 不思議に思った審神者が顔を上げれば眼前にあったのはへにゃりと緩み真っ赤になった物吉の笑顔。
「だって僕、今とっても幸せですから」
 釣られて頬を染めながら審神者は心中で思う。
 胸がぽかぽかと暖かくなるこの気持ち。きっとこれが、いつも彼が感じている喜びなのだ。
 すっかり逆上せてしまった頬を撫でる冷たい風。
 頭上の洗濯物をはためかせながら吹き抜けていく冬の風が今はとても心地よく感じるのだった。


[ 2015/11/22 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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