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とうらぶlog

 
 僅かに火薬の残香が漂う夜の中庭。
 審神者の思いつきで始まった花火大会も終わり、先程までの賑やかさが嘘のように静まり返った場所で二つの人影が黙々と後片付けを続けていた。
 片や、他の刀剣が名乗り出たのも聞かず自分が言い出したことだからと片付けを買って出た小さな審神者。
 そしてもう片方は、そんな彼女へ近侍としていつも付き従うやや不機嫌そうな顔をした歌仙兼定の姿だ。
 打ち上げ花火のごみに柄杓ですくった水をかけ、燃え尽きた手持ち花火の入った手桶を水場の近くへと集める。
 大したことのない作業ではあるが、大所帯で遊んだ後ともなるとそれなりに数が多く存外大変な作業となっていた。
 6個目の手桶を水場の近くへ運んだところで歌仙の口から無意識の内にため息がこぼれる。
 審神者がやるのならば近侍の自分もと、自ら買って出た作業に文句を言うつもりはないが些か軽く考えすぎていたようだ。
 もっとも、歌仙が手伝うと言わなければこれだけの作業を全て審神者一人でこなさなければならなかったのだから致し方ないだろう。
 本当に彼女はお人好しというか何というか……。
 そんなことを考えつつ、さっさと残りの手桶も回収してしまおうと振り向いたところで離れて作業をしていた審神者が突然「あっ!」と驚いたような声を上げた。
「どうしたんだい?」
 何か問題でもあったのかと慌てて近寄れば、花火の包装紙をまとめていたらしい審神者が少し困ったような顔で「これ……」と何かを差し出してきた。
 審神者の手にあったのは未開封の線香花火。
 どうやら包装紙の中にまぎれてしまっていて気付かなかったらしい。
「どうしよう……」
 もう夏の終わりも近く、おそらくは今日のように皆で花火をする機会などはもうないだろう。
 しかしこのまま捨ててしまうというのも少しばかり勿体ないような気がする。
 うーん……と考え込んでしまった審神者をよそに歌仙がさも当たり前のように口を開く。
「なら、今やってしまえばいいじゃないか」
 そんなことは考えもしなかったのか、言われた審神者が面食らったように両目を瞬かせた。
 そして、なぜか申し訳なさそうに。
「……いいのかな?」
「いいに決まっているだろう」
 元々、皆の為にとわざわざ現世から花火を買ってきたのは他でもない彼女だ。
 仮に問われたのが歌仙でなくとも皆同じ返答をしたことだろう。
 歌仙はそれでも躊躇っている審神者の手から線香花火を取り上げると、躊躇なく封を切り取り出した一本を彼女の手に握らせる。
 そのまま強引に両肩を押してしゃがませ、審神者が花火と共に持ってきた現世の道具でさっさと火をつけてしまった。
 審神者はその一連の流れにあわあわと混乱していたが、手元の線香花火がパチパチと火花を散らしはじめると途端目を輝かせながらその美しさに見入ってしまう。
「知っているかい、主」
 審神者と向かい合い、自分が手にした花火にも火をつけながら歌仙が口を開く。
「線香花火の燃え方にはそれぞれ呼び名があってね」
 はじめは『蕾』、次に爆ぜる姿が『牡丹』、それが激しくなってくると『松葉』、そして最後の瞬間が『散り菊』。
「この短い間にも四季が存在するなんて、実に風流だと思わないかい?」
 言ってにこりと微笑めば、呆けたように話しを聞いていた審神者の顔が途端うっすらと朱を帯びる。
 それに気付いてしまった歌仙も気恥ずかしさで頬を熱くしながらごまかすように二本目の花火を審神者に向かって差し出した。
 パチパチと二本の線香花火が優しく爆ぜる夏の夜。
 時折流れる涼しい風が火照った頬に心地よく触れて、季節の終わりを教えてくれていた。


[ 2015/08/26 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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