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とうらぶlog

 
 浦島虎徹が重傷を負って帰城したと聞いた時、彼の兄である蜂須賀虎徹は普段の優美さからは想像もできないほどに動揺し周囲の刀剣達を酷く驚かせた。
「浦島!」
 手入部屋から出たばかりの浦島に心底危惧していた様子の蜂須賀がバタバタと駆け寄っていく。
 一方の浦島はあっけらかんとしたもので、傍らへ来るなりぺたぺたと体のあちこちを触って無事を確かめる兄に「どうしたんだよ兄ちゃん」と不思議そうな顔を向けている。
「もう大丈夫か?痛くないか?」
「平気平気!手入すっげー気持ちよかったしさ。それに……」
 そこで一度言葉を区切った弟に、蜂須賀は訝しげな顔で「それに?」と繰り返す。
 すると浦島は僅かに頬を赤らめながら。
「主さんから、とーっておきの薬を貰ったんだ」
 言って、へへっと照れ笑いを浮かべた弟にいまいち意味が理解出来ない蜂須賀の困惑しきった表情が向けられる。
「ああ言うのをさ、万能薬って言うのかな。なーんてね!」
 なぜか嬉しそうにそう言って手を振りながらその場を後にした浦島。
 その姿をぽかんと見送りながら、蜂須賀は心中でずっとその言葉の意味を考え続けていた。

 そんな彼が出陣先で重傷を負ってしまったのはそれから僅か数日後の事だった。
 幸い瀕死とまではいかなかったものの、同部隊の刀剣に支えられようやく手入部屋へと運び込まれた蜂須賀の姿に臆病な審神者の顔が一瞬で蒼白へと変わっていく。
「蜂須賀さん……」
 荒い息を吐きながら手入部屋の布団へと寝かされた蜂須賀の手を審神者の白く小さな手が包み込むようにして握り締める。
 こぼれ落ちた涙が傷付いた肌に触れ、そこでふと蜂須賀は数日前の弟の言葉を思い出した。
「主、薬をくれないか?」
「くすり……ですか?」
 瞳を濡らしたままきょとんとする主に「先日、浦島に与えたのと同じものを」とやや掠れた声で口にすれば。しばし間を置いてから審神者の顔が火を吹いたように赤くなった。
「え、いや、あれは、そのぅ……」
 俯いて口篭る審神者の様子に、蜂須賀は「まさか妙な薬なのか!?」と無理矢理上半身を起こし走った痛みに小さく呻き声を上げる。
「ち、違います!大丈夫ですから、どうか落ち着いて」
 辛そうな蜂須賀の体を再度布団へと横たえて、暫くその姿を眺めていた審神者は。不意に「笑わないでくださいね」と呟くなり蜂須賀の額へ自身の額を押し当てて。
「い……痛いの痛いの、飛んでいけー!」
 言って、パッと離された審神者の顔は先程よりも更に赤く染まっていた。
 そして、横になったままぼうっとしている蜂須賀へ「早く、よくなってくださいね」と少しばかりこわばった笑みを向けてから足早に手入部屋を後にしていった。
 残された蜂須賀は両手で顔を覆いながら心中で叫ぶ。
 これのどこが薬だっていうんだ。こんなもの、質の悪い毒じゃないか。
 熱の引かない顔を隠したまま手入を受けることになった蜂須賀が、いつの間にかすっかり痛みを忘れている事に気付くのはまだ少し先の話しだった。


[ 2015/07/27 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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