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とうらぶlog

 
 これを、と差し出された白い花弁に審神者の顔がぱあっと綻ぶ。
 遠征先で見つけたというそれを壊れ物を扱うように両手でそっと受け取ると、何度か角度を変えてうっとり眺めた後、顔を上げて「ありがとう」と改めて微笑みを浮かべた。
 それを見て主の傍らに座る刀剣――骨喰藤四郎は相変わらずの無表情を浮かべたまま「よかった」と小さく呟く。
 表情こそ変わらないものの纏う雰囲気はどことなくいつもよりも柔らかいような気がした。
「この花、何て名前なの?」
「……すまない。花の名には詳しくないんだ」
 主の問いに答えられず心なしかしょんぼりとする骨喰に審神者は慌てて「気にしないで」と笑ってみせる。
 とはいえやはり気にはなるのか「そうだ」と小さく口に出してから側の机に置いていた携帯端末へと手を伸ばす。
 そして不思議そうに首を傾げる骨喰をよそに何かのプログラムを立ちあげると、手のひらに置いた花を端末のカメラで取り込んで花の詳細を検索し始めた。
「えーっと……。あ、あったあった」
 言って骨喰にも見えるよう傾けた端末の画面には確かに審神者が手にする白い花の画像が映し出されている。
「『クチナシ』っていうのね。花言葉は……『 喜びを運ぶ 』『 とても幸せです 』 か」
 審神者はまたうっとりと「素敵」と呟いた後花を乗せた両手を胸元に寄せ、
「クチナシ……クチナシ……。花言葉は……」
 目を閉じて何度もそれを繰り返すと不意に「よし、覚えた!」と口にしてにこりと微笑んだ。
「……覚えた?」
 それで?と不思議そうにする骨喰に審神者は「うん」と顔を向ける。
「昔教えてもらった、おまじないみたいなのでね。こうやって心の中に刻みつけるように繰り返してから『覚えた』って言うの」
 そうすると、本当に忘れないんだよ。
 そう言われ骨喰の胸がとくんと跳ねた。
 炎と共に記憶を失った彼にとって過去や記憶など脆く無意味なものでしかなかった。
 しかしこの本丸で得た経験や思い出、目の前で微笑む小さな主の記憶だけはいつの間にか失いたくないものだと感じるようになっていたのだ。
 再度クチナシの花へと視線を戻した審神者の横で骨喰は片手を胸の辺に押し当てる。
 そして主の横顔を見つめながら心中で強く「あるじ……」と念じた。
 ぽっかりと空いた記憶の空白に優しい記憶と眼前の笑顔を刻み込んでおくために。


[ 2015/07/15 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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