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とうらぶlog

 
 静かな本丸に雨の降る音だけが響いている。
 既に夏を迎えているというのに今は少しだけ肌寒かった。
「まいったなぁ……」
 そんな中、本丸の隅にある小さな蔵の軒下で体を雨に濡らした審神者がため息混じりに声を漏らす。
 今日は珍しく体調の良かった彼女がお目付役である薬研から何とか許可をもらって本丸内を散策し始めてすぐのこと。
 突然降られた夕立に慌ててこの場所へ逃げ込んだまではよかった。
 しかし一向にやむ気配のない雨脚と濡れて冷えたことで少しばかり悪くなってしまった体調により自力で母屋へ戻ることが困難になってしまったのだ。
 ブルりと一際大きな身震いがして途端に体が気だるくなる。
 どうやら思っていた以上に寒さで体力を奪われてしまっているらしい。
 本丸の特殊な力により死ぬことはないと分かっていてもやはり辛いものは辛いのだ。
「まいった、なぁ……」
 再度呟きながら蔵の壁に沿ってズルズルと崩れ落ちていく審神者。
 ぼんやりとした思考に浮かぶのは鬼の形相をした薬研とこの世の終わりを迎えたような大和守の顔。
 と同時に何故か意外な刀剣の声が幻聴として聞こえてきた。
「おい!おい、大丈夫か!?」
 聞き覚えのある声色に閉じていた目を僅かに開ける。
 眼前に見えるぼやけた朱色。ぺちぺちと頬を叩かれている衝撃。
 どうやら幻などではなかったらしい。
「……いずみのかみ?」
 名を呼べば眼前の刀剣――和泉守兼定が安堵の息を吐く音が聞こえた。
「ったく、何やってんだよこんなとこで」
「ごめん……なさい」
 素直に謝りながらよくよく見た和泉守は長い黒髪を雨に濡らし自慢の装いを泥で汚した、普段ならば絶対に見せないような姿となっていた。
 知らず審神者の表情が曇ったことに気付いたのだろう。
 和泉守は「ああ……」と自身の姿を確認してから弱りきっている審神者の額へ親指で弾いた人差し指をパチンと軽く叩きつけた。
「あのなぁ、今はオレよりも自分のことだけ考えてろって」
 言われ、つい額を押さえてしまいながら「はい」と小さく返事を返す。
そして改めて和泉守へ視線を向ける、と。
「……?」
 何故か和泉守が主を凝視したまま頬を赤らめて硬直していた。
 審神者が普段から着用している薄手の寝巻き。
 雨に濡れたそれが細い体にぴたりと貼り付いて、傍から見ると実に扇情的な姿となっているのだが当の本人はそのことに一切気付いていないのだ。
「和泉守?」
 不思議そうに首を傾げた主に名を呼ばれ、和泉守はハッと思考を現実へ戻す。
 激しく左右に頭を振って何とか理性を取り戻すと自身の羽織で審神者の体を包み隠し、そのままひょいと横向きに抱き上げた。
「えっ、ちょ、和泉守!?」
 驚く審神者に「いいから、しっかりつかまってな」と笑って見せ、主が頷くのを確認した後母屋に向かって勢い良く走り始めた。
 言われた通り必死にしがみつく審神者の眼前で和泉守の端整な顔が雨に濡れて光っている。
 真っ直ぐに前を見据えた真剣な双眸に審神者はとくんと胸が高鳴るのを感じた。
 ほんのりと赤みを帯びて火照る顔。
 そこに当たる冷たい雨が、今は少しだけ心地よかった。


[ 2015/07/11 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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