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とうらぶlog

 
「さて、大倶利伽羅。ついに今日で君の近侍勤めも七日目になったわけだが……」
 仁王立ちで腕を組み、正面へ正座させた大倶利伽羅に向かってそう口にした審神者。
 それを興味なさ気に聞き流しながらいつもの仏頂面で沈黙し続ける彼の姿に審神者の顔が更に不機嫌になっていく。
 近侍になって七日目だという大倶利伽羅は鍛刀によって本丸へ顕現してからも丁度七日目という新参の刀剣だ。
 審神者の意向により本丸へ来たばかりの刀剣は近侍として審神者と共に仕事をし、人としての体と本丸での生活の両方に慣れてもらうというのがこの本丸の決まり事だった。
 今までは多少の差はあれど皆この決まり事によって短期間で本丸や他の刀剣達と馴染むことができていた。
 しかしこの大倶利伽羅という刀剣だけは、一週間が経った今でも皆と馴染むどころか主たる審神者にさえ距離を置いている。という状況なのだ。
「私が言いたいことは、わかるな?」
「馴れ合うつもりはない。と言ったはずだ」
 もはや口癖のようになってしまっている台詞を到底主に向けるものとは思えない口調で言い放つ大倶利伽羅。
 それを聞いた審神者は一瞬だけこめかみの辺りをぴくりと痙攣させ、しかし次の瞬間には「へぇ……」と低く呟きながらその顔に満面の笑みを浮かべていた。
「君がそういう態度なら私にだって考えがある」
 そう言って座る大倶利伽羅の近くへしゃがみ込んだ審神者。
 そして、その笑顔を崩さぬまま。
「今から君にとっておきの呪いをかけてあげよう」
 言うなり、むんずと両手で大倶利伽羅の頬を掴んで自身の方へと引き寄せる。
 咄嗟のことに対応出来なかった大倶利伽羅の体が前のめりに傾き、そのまま審神者に噛み付かれるような形で互いの唇同士がぶつかった。
 何が起きているのか理解出来ないらしい大倶利伽羅の目が思い切り見開かれ、自然と審神者の顔が彼の目に焼き付けられていく。
 暫しその状態が続いた後、徐に審神者が体を離して何事もなかったかのように立ち上がる。
「さて、これで君の近侍業は全て終了だ。今この瞬間から君は晴れて自由の身だよ」
 七日間お疲れ様。
 一方的に、そしてどこか事務的にそう告げるなり審神者は部屋を後にしてしまった。
 思考と共に体までもが固まってしまった大倶利伽羅をその場に取り残したまま。

 × × × 

 それからまた一週間。
 あの日以来、審神者は本当に大倶利伽羅へ一切の干渉をしなくなった。
 審神者として最低限の命令は下すもののそれ以外では会話どころか目を合わせることすらしていない。
 しかし当の大倶利伽羅はと言えば。あの日以来、審神者から解放されたどころか逆に彼女のことばかり考えてしまっている。
 気付けば彼女の姿を探し、姿を見かければつい視線で追ってしまう。
 それは唯一積極的に話し掛けてくる燭台切に「大丈夫?」と心配される程であり、大倶利伽羅自身にもその理由が分からず頭を抱える日々を続けている。
 あの日言われたとおり自分はもう自由なのだ。
 刀剣男士としての務めを果たす以外は好きなようにすればいい。
 なのにこれでは全くの逆じゃないか。
「呪い……か 」
 ほとんど無意識にあの日の審神者の言葉が口をつく。
 その視線の先には珍しく一人で庭を歩いている審神者の姿。
 大倶利伽羅は一度強く目を瞑った後、意を決して彼女の元へ足を踏み出した。
 あの日のあの行為の意味と、この厄介な呪いの解き方を自身の主へ問い質すために。


[ 2015/06/28 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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