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 時折頼まれるサバナクロー寮でのお手伝い。
 大量に積まれた洗濯物をラギーの部屋まで運び込んだ監督生は、ふと棚の上に置かれたガラス瓶に気が付いた。
 両手に収まる程の大きさで半球型の蓋が付いた透明な容器には色鮮やかな丸い塊が半分程まで詰まっていて、窓から差し込む光を浴びて宝石のようにキラキラと輝いていた。
「先輩。これ、何ですか?」
 聞くと少し離れた所でせっせと洗濯物を畳んでいたラギーが顔を上げ、それを視界に入れて「ああ」と呟き立ち上がる。
「ただのキャンディーっすよ。授業で作ったんで多少の魔力は入ってるけど」
 言いながら瓶の蓋を開けその内の1つをつまみ上げて監督生の眼前へと差し出した。
 ラギーの指先程しかないキャンディーは改めて見ても綺麗に輝いていて。見とれているらしい監督生は無意識に顔を動かしては色々な方向からそれを眺めため息を漏らしていた。
 はじめはその様子を訝しがっていたラギーだったが、ふと何かを思い付いたのか気付かれぬよう意地の悪い笑みを浮かべ。
「監督生くん。あー……」「あー?んっ!」
 誘われるまま開かれた唇にぽんっとキャンディーが放り込まれる。
 慌てて押さえた口の中で勝手に転がるキャンディーは甘く爽やかな味を舌の上へと広げていく。
「美味しいっすか?」
 聞かれ、素直に頷いた監督生。
「それはよかった」
 満足気に笑うラギーにそうだお礼を言わなくてはと監督生が向き直った途端。
「ところでそれ。何の魔法が込められていると思う?」
 先程よりも低い声で尋ねられ、はたとその事を思い出す。
 舌の熱でゆっくりと溶けていく甘いキャンディー。
 あれ?と違和感を感じてラギーを見ると、真っ直ぐにこちらを見る目に射抜かれて心臓が痛いくらい飛び跳ねた。
 鼓動がどくどくと早くなり、それに合わせて体が熱を帯びていく。
 その状態にまさかとは思いつつ、浮かんでしまった可能性を払拭出来ず口にした。
「もしかして……び、やく的な?」
 無理に笑い冗談めいたその言葉には答えないままラギーの顔が突然近付き、再び胸が飛び跳ねる監督生。
 黙ったまま、鼻の先が触れそうな程の距離でじっと視線を合わせるラギーの口がゆっくりと開かれて。
「ざーんねん!不正解」
 唐突に離れた互いの距離。
 突然の出来事に気の抜けた監督生の体が思わずその場へへたり込む。
 見上げた先では楽しそうなラギーが口元に手を添えるいつもの笑い方で。
「本当は一時的に体温を上げるだけの魔法なんすよね。いやー、さすがは珍しくクルーウェル先生から褒められただけのことはある!」
 心底楽しそうに、かつ自慢げに言うラギーを呆然と見つめることしか出来ない監督生。
 しばらくそうしていた後、急激に先程の媚薬発言が恥ずかしくなってきたと同時。
 未だ笑い続ける先輩への苛立ちがふつふつと湧き上がり。勢いに任せて立ち上がると傍らにあった瓶の中身を鷲掴みラギーの口へと思いっ切り押し込んだ。
「んぐっ!」
 驚くラギーへ先刻自分がされたようにずいと顔を近付けた監督生は。
「先輩。吊り橋効果、って知ってます?」
「ふへ?!」
「ご自慢の魔法。たっぷり味わってくださいね」
 完全に開き直った顔で笑う監督生とキャンディーに込められた魔法で急激に脈打つラギーの心臓。
 悪戯から始まったお互いのこの感情が果たしてどう転ぶのか。
 それはまた、別のお話。


( 2022/04/10 )
参加ログ│#ラギ監ちゃん深夜の60分創作一本勝負
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