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数刻前より、本丸の正門付近を小さな影が所在なさげに移動し続けている。首の後に大きな笠を背負った影は小夜左文字という名の刀剣男士で、時折立ち止まっては不安げな顔で門を見つめ、しばらくするとまた歩き出すという行為をただひたすらに繰り返していた。
既に日も傾き始めた夕刻。いよいよもって、ただでさえ気難しい表情だった顔に深刻な焦りが浮かび始めたその時。不意に大きな門が音を立てて開き、賑やかな声と共に遠征に出ていた刀剣達が次々と本丸へ帰城してきた。
「…おや」
その内の一振り。隊の最後尾にいた刀剣が小夜の姿を視界に入れるなり、僅かに目を見開いてからやや足早に彼の元へ歩み寄ってくる。
「ただいま、小夜」
身長差のある小夜を見下ろしながら、ふわりと笑った刀剣男士。癖のある紫の髪を風に靡かせる彼は歌仙兼定と言い、小夜はその歌仙の体に目立った怪我が無いことを素早く確認して、ようやっと安堵のため息を吐き出した。
「…よかった」
言って、表情を和らげた小夜に歌仙は不思議そうな目を向ける。
「ああ、もしかして心配してくれていたのかい?」
「だって、歌仙は初めての遠征だったから…」
かなり早い段階から本丸へ顕現していた小夜とは違い、歌仙はつい最近ヒトの体を得たばかりの新参者だ。見るもの全てに目を輝かせる後輩の刀剣に、古い縁もあってか、小夜は何かと気を掛けてしまっていた。
「…あっ」
不意に小さく声を上げるなり、きょとんと首を傾げた歌仙に少し屈むよう手招きした小夜。歌仙が素直に従うと、小夜は徐に着物の袖で歌仙の頬を軽く拭った。
「小夜?」
「少し、汚れていたから」
歌仙は綺麗でいた方がいい。と内心で続けた小夜に、反射的に拭われた頬へ手を添えていた歌仙がへにゃりと笑いながら「ありがとう」と口にした。
照れているのか、僅かに赤みが差した彼の頬。夕焼けに照らされたその姿は、やはりとても綺麗だと。小夜はしばらく、その光景に目を奪われ続けていた。
細川組ワンライ第六回log / お題:夕焼け
[ 2015/07/30 ]
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