春
スタフェス本番の少し前。
舞台の袖で「はい」と手渡された小さな箱。
促されるまま可愛らしいリボンと包装紙を解けば、中から出てきたのは銀色に輝く裁ち鋏だった。
刃の側面に天使の装飾が彫られたそれは小さいながらもずしりと重く、高価な物であることが容易に伺える。
「これ⋯⋯」
「プレゼントだよ。クリスマスのね」
言い終わる前に遮られた言葉。
不満げに見上げた先では、天敵である生徒会長―――天祥院英智が無駄に優雅な微笑みを浮かべていた。
「いりません」
「おや、どうしてだい?」
「受け取る理由がありませんので」
家族でも恋人でも、きっと友人ですらない二人の関係。
DDDが終わった今、少なくとも敵同士ではないのだろう。
かと言って、一方的な贈り物をされるような仲でないことも確かだった。
「困ったなぁ⋯⋯」
突き返されたプレゼントを手に、小さく唸りながら小首を傾げる英智。
そんな姿を見上げ、相変わらず思考が読めないなと踵を返そうとした途端。
「僕へのプレゼントが貰えないじゃないか」
は?と、思うよりも早く。
掴まれた利き腕に鋏を握らされ、気付いた時には英智の喉元にその切っ先が押し当てられていた。
驚き、本能的に息を呑んだ頭上から降ってきたのは、やさしく柔らかな低い声。
「ほら、これで⋯⋯」
ようやく僕を殺してもらえる。
数ミリ先にある死を前に、向けられるのはいつもと変わらぬ優しい笑顔。
『最期はわたしが殺してあげる』と、あの日した約束を走馬灯のように思い出しながら。
鳴り響いた開演ブザーの音を、どこか遠くに聞いていた。
君へ鋏を贈った理由
ブザーの音が鳴り響き、同時に解放された腕。
取り落とした鋏と共に崩れ落ちた頭の上へ「行ってくるね」と優しい口付けが落とされた。
震える手で頭を触り、ステージへ向かう背中を視線が追う。
どくんどくんと脈打つ鼓動は、恐怖からなのだと信じたい。
[ 2018/05/22 ]
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