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とうらぶlog

 
 誰かが言っていた。
 自分達の主は時に暴力的なまでに無防備な女性だと。
 そして今まさに、そんな主を前にしている小狐丸はほとほと困り果てたという顔で痛む頭を抱えていた。

 麗らかな光が差し込む本丸の手入部屋。
 その中心に敷かれた布団で目覚めた小狐丸は腹部に感じる僅かな重みに顔を顰めた。
 首だけを僅かに動かしてそちらを見やると、目に入ったのは自分の腹部に身を預けるようにして眠る小さな主の姿。
 小狐丸はそれを確認した瞬間に息を飲み、反射的に布団から飛び退いてしまったが寄りかかっていた質量を失って尚、審神者はすやすやと眠り続けている。
「ぬしさま……」
 やや呆れを含んだ声で呟くと、掛け布団に突っ伏している主をひょいと抱き上げ先程まで自分が寝ていた布団へと横たえる。
 また、一晩中付いていてくれたらしい。
 そう思うと、普段以上に審神者の事が愛おしくなり小狐丸の顔が自然と柔らかく綻んでいく。
「ありがとうございます。ぬしさま」
 そう言いながら僅かに腫れの残る目元に触れるとさすがに違和感を感じたのか審神者が大きく身を捩った。
 途端、着ていた着物の胸元がはだけ白い首筋が露となる。
「……ッ!」
 それを見た瞬間、思わず小狐丸の体が硬直する。
 数秒ほど時が止まったかのような感覚に陥った後すぐに視線をそらして目元を手のひらで覆い隠す。
 そして今更ながらに意識してしまった。
 今の自分が、淡い恋慕を抱いている女性と布団の敷かれた部屋に二人きりでいるということを。
 目元に置いていた手を口元に移動させ、ちらと審神者の方へ視線を送る。
 相変わらずあられも無い姿で眠り続ける主は、なるほど、確かに暴力的なまでの無防備さだった。
 本能的に飲み込まれた唾が無音の室内でいやに響く。
 獣の本能か男性体としての性か。心中を侵食していくざわついた欲望が無意識に小狐丸の体を動かしていく。
「ぬしさま……」
 普段よりも低い声色で呟き、少々未発達な審神者の鎖骨に小狐丸の大きな手が触れる、と。
「こぎつね、まる……」
 不意に聞こえた小さな声に小狐丸の体が再び固まる。
「はやく……よく、なって、くださ……」
 どうやら寝言らしい主の声は急激に小狐丸の中のどろどろとした熱を奪い去って行く。
 そしてその代わりとばかりにせり上がってくる、どうしようもないほどの彼女への愛おしさ。
 小狐丸はふっと自嘲気味に笑うと、首筋に触れていた手で審神者の前髪を僅かに上げ露になった額へ軽い口付けを落とした。
 そのまま素早く主の着物を整え、布団を掛けてから主を起こさぬようそっと部屋を後にする。
 後ろ手に戸を閉めてふうと肺に溜まっていた息を吐き出すと、もう一度自嘲じみた笑を浮かべ天を仰いで呟いた。
「我ながら、随分と甘いものよ……」
 そうこぼした小狐丸の――小さな主に飼い慣らされてしまった獣の内は。それでも、どこか暖かなもので満たされているようだった。


[ 2015/06/06 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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