とうらぶlog
修行の旅を終えて帰ってきた時、皆が口々に「変わったな」と言ってきた。
確かに自分でもここまで変わるとは思っていなかったが別にそれは修行を終えたからだけではないと思っている。
一番の要因は主と恋仲になったからだろうが。
きっとそれよりもずっと前。
それこそ彼女と出会ってからずっと、少しずつ今の自分へ変わって行ったのだと。今なら胸を張れってそう言える。
久方ぶりの戦場の空気に身震いしたのも束の間。
以前の自分よりも格段に強くなったと実感出来る力を振るい、気付けば最後の敵を切り伏せていた。
刃の血を振い落し鞘に収めながら部隊の周辺に意識を巡らせる。
おそらくはこれで任務完了だろう。
部隊員の負傷具合を確認して主に一報を入れると帰還命令と共に帰城の為の門が現れた。
ぞろぞろと門へ向かう仲間達を殿から見守りつつ念の為もう一度周囲に視線を走らせる、と。
少し離れた場所の地面に小さな花が咲いているのが見え自然とそちらへ足が向いていた。
「兄弟?」
皆に続いて門を潜ろうとしていた兄弟-―堀川国広が「どうしたの」と立ち止まってこちらを振り向き問い掛ける。
「ちょっとな」
「あ、もしかして主さんに?」
隠した筈の花に目敏く気付き嬉しそうに笑う堀川。
どうしてお前が嬉しそうなんだと問返せば。
「そういう所は変わってないなって」
言われ思わず面食らってしまった。
変わった、とばかり言われてきたが。やはり兄弟刀には敵わないなと苦笑して。
「ほら、早く帰って、主さんを安心させてあげよう」
その言葉にああと応え、我が家たる本丸へ向かって時の門を潜り抜けた。
×××
「どうぞ」
招かれた声に短く返答しながら引き戸を開ける。
視線の先では寝床で上半身だけを起こした主がにこにこと笑って出迎えてくれていた。
後ろ手に戸を閉めて傍らまで歩み寄ってから座ると自然光に浮かぶ主の顔色をじっと見る。
白い肌にはほんのりと赤みが指していて唇の様子からも調子は悪くなさそうだと納得していた時。
「そ、んなに見られると。流石に照れる……」
「ッ、悪い!」
昔の癖でついと口にすれば、主は目を細くして「そっか」と笑い、懐かしそうに赤みが増した自身の頬へ手を添えた。
「それで用事って?」
「ああそうだ、これを」
そう言って先の戦場から持ち帰った花を差し出すと今度は子供のような笑顔でそれを受取る主。
「本当は、もっと綺麗な花束でも送ってやりたいんだがな」
「ううん。私、こうして山姥切がくれる花が昔から大好きだから」
だから嬉しい。と大事そうに持たれた名も知らぬ小さい野花。
そう言えば病弱で部屋にこもりがちな彼女にとっては自然の草や土の匂いでさえも外界に触れられる貴重な存在だったと。今更ながらに思い出して力なく笑った。
「あるじ」
出会った時から変わらない。何よりも大切で愛しい人。
「ただいま」
「おかえりなさい。山姥切国広」
辛く長い旅の果て。
何よりも愛しく大切な場所へ、皆の待つこの家へ帰ってこれた事を今はただ噛み締めていよう。
( 2022/04/17 )
参加ログ│#W山姥切と女審神者版60分一本勝負
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