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とうらぶlog

※ むつ→先代審神者前提
  
 秋も終わりに近付いたとある夜。
 開け放たれた戸から吹き込む風に肌寒さを覚え陸奥守吉行は目を覚ました。
 いつの間に寝てしまっていたのだろう。
 自室とは違う感触の畳でごろりと寝返りを打ちながら薄く目を開く。
 と、月明かりの中にぼんやりと浮かぶ人影に気が付いた。
 淡い光を纏うように座る影はどうやら女性のようで。片手に小さな猪口を持ち、もう片方の手で寄り添うようにして寝転ぶ幼子の髪を愛おしそうに撫で付けている。
「   」
 自然と口から零れ出た言葉は、しかし音にはならず薄闇へと溶け込んだ。
 まるで妖にでも魅入られたように動かない体と虚ろな視界。
 けれど不思議と恐怖はなく。むしろ……。
―――ぬくうて、懐かしい。
 何故かそう思った刹那。
 突然くらりと視界が歪み徐々に意識が遠ざかっていく。
―――まってくれ、まだ……っ。
 無意識に伸ばした腕の先。振り返った女性の口が自分の名を呼んだような気がした。

 ✕ ✕ ✕

 小鳥の鳴き声と小さなくしゃみ。
 肌寒さにぶるりと体を振るわせた後陸奥守はやけに重たい体を起き上がらせる。
 ぼんやりとする視界の端にもぞもぞと動く何かを捉え、向けた視線の先では小さな主が子猫のように丸まって寝息を立てていた。
「はぇっ!?」
 思わず上げてしまった声に気付いたのか審神者の体が一際小さく縮こまり、次いで重そうな瞼がゆっくりと開かれていく。
「……むつ……くん?」
 ぼんやりとしながらも傍らの近侍を認識したらしい審神者が名を呼べば、陸奥守の脳裏に昨晩の出来事が幻灯のように蘇ってきた。
―――確か昨日は、眠れんとゆう主にせがまれるまま先代との思い出を聞かせて……。
 どうやら寝物語を聞かせる内いつの間にか陸奥守自身も眠ってしまったらしい。
「……ねぇ、むつくん」
 まだ眠いのか両手で目元を擦りながら口を開いた審神者。
 小さな主を見下ろしどうした?と問えば少女はとても嬉しそうに。
「夢の中でね、お母さんに会ったの」
 お話しは出来なかったけど、側でずっと、わたしの髪を撫でてくれた。
「ちょっと、お酒くさかったけど」
 そう言って笑う小さな主に陸奥守は心中でああ……と声を洩らした。
 朧気だけれど覚えている、不思議で暖かい夢の記憶。
 それは見下ろした少女と同じ。
 どんなに恋しく思っても決して会えない人の夢。
 審神者の笑顔を見つめていた陸奥守は一度だけ強く唇を噛み締めるとすぐににかりと笑みを浮かべて主の髪をこれでもかと乱暴に撫で回した。
 胸の奥で疼く、鈍い痛み。
 少しずつ心を蝕むそれを無垢な主に気付かれないように。
 
 それは満月の夜が明けた朝。
 幼い主が引き継いだ本丸で、陸奥守吉行と幽霊になった先代審神者が再会する、少しだけ前の物語。
 

(2016/11/15)
参加ログ/お題提供│#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
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