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とうらぶlog

 
 乱藤四郎が手入部屋で目を覚ますといつも賑やかな本丸内が静寂に包まれていた。
 少しばかり心細くなり色々な部屋を見て回っていると、いつもは近侍が控えている部屋の縁側で不安そうな顔を手元の端末に向けている審神者の姿が目に入った。
「……主さん?」
「ヒッ!」
 乱が突然声を掛けたことで悲鳴のような声を上げた審神者だったが相手が乱だと分かると「何だ、乱ちゃんかぁ」と安心したような笑みを浮かべる。
「手入終わったんだね。お疲れさま」
「うん。それより、みんなはどうしたの?」
 キョロキョロと辺りを見渡しながら聞くと、主曰く皆出陣や遠征などで出払ってしまっているらしい。
「じゃあ、今本丸に居るのはボクと主さんだけなんだ?」
「そうだよー」
 そう言って子供のように笑う主にえへへと笑い返しながら乱は審神者の体へ無邪気に抱き着く。
「なら今はボクが主さんを独り占めだ」
「あはは、私なんかでいいなら好きなだけどうぞ」
 傍から見れば姉妹同士でじゃれ合っているようにしか見えない光景だが乱の心中には少々複雑な思いが渦巻いていた。
 独り占め、と言いつつも彼女の意識は常に手元の端末へと向けられている。
 ちらと視線を向ければ、端末に表示されているのは出陣部隊を率いている彼女お気に入りの近侍の姿。
 ああ、結局自分はこいつ以上になれないのか。
 そんなどす黒い感情が乱の心中に浮かんだ途端、無意識の内に審神者を抱き締める腕に力を込めていた。
「えっ、あの、乱……ちゃん?」
 突然強められた腕の力に驚いた審神者が端末から顔を上げて乱の顔を見る。
 そして乱の顔に浮かぶ見たことのない真剣な顔を見て体を強ばらせた。
「ねぇ、主さん」
「なん……ですか」
 無意識に怯え、逃げようとしている審神者の体を強引に自身の方へ引き寄せて僅かに震えている耳元で低く呟いた。
「ボクだって、男なんだよ?」
「……ッ!」
 怯える審神者の瞳に涙が浮かんだのと本丸の正門付近が騒がしくなったのがほぼ同じタイミングだった。
 賑やかに聞こえてくる声が遠征部隊の帰還を告げている。
「……帰ってきちゃったね」
 そう言いながら乱はぱっと審神者の体を解放する。
 そして放心状態の主に普段と変わらぬ愛らしい笑みを向けながら「行こう、主さん」と手を伸ばす。
「み……乱。今のは、どういう……」
 意味、と言おうとした口が乱の人差し指によって遮られる。
 次いで人差し指は乱の口元へ移動し「秘密」と言いたげな笑みがぼうとする審神者へと向けられた。
 そのまま部屋を出ていってしまった乱と一人取り残されてしまった審神者。
 その顔が羞恥で真っ赤に染まったのはそれから少し経った後だった。

(2015/05/10)
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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