このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

とうらぶlog

※うちの本丸設定(歌仙vs小狐丸要素)有り


 参ったな。
 手入が終わり目を覚ましてすぐに歌仙兼定は心中で呟いた。
 きちんと顕現せず意識だけがぼんやりと人の形を成しているという状態で見下ろす先には見慣れた主の姿が横たわっていた。
 真っ赤に目を腫らし、小動物のように丸まって眠るその姿はこの本丸内ではさして珍しいものではない。
 問題だったのは彼女が歌仙の依り代である刀をすっぽりと腕に抱いたまま眠ってしまっていることだった。
 そんな状態でも顕現すること自体はさして問題ではないだろう。
 しかし依り代を核として人の形を成す以上今顕現すれば必然的に彼女の腕に自身が抱かれる形になってしまうのだ。
 ほんの一瞬だけ、歌仙の心中に「それも悪くはない」という思いが過ぎったがすぐに頭を振ってその考えを振り払う。
「参ったな……」
 再度小さく口にするのと同時に、ん……と声を漏らして審神者が小さな体を僅かに捩った。
 その幼子のような姿に思わず笑みを浮かべてしまった歌仙はやれやれとでも言うようにため息を吐いて意識だけの体をそっと主の傍らへ寄り添わせる。
 麗らかなひだまりの中、二人だけの穏やかな時間。
 たまには、こんな時間も悪くはない。
 そう思った歌仙がゆっくりと目を閉じようとした時だった。

「居られますか、ぬしさま」
 ガラリと縁側に面した戸が開かれて内番の装いをした小狐丸が顔を覗かせた。
 と、同時に目を見開き次いですうっと目を細めていく。
「……何を、しておられるのです?」
「おや、見て分からないかな?」
 睨むような小狐丸の視線の先には主の小さな体を抱き竦める形で横たわっている歌仙の姿。
 小狐丸の気配を察した歌仙が素早く己の体を顕現させ意図的にそのような状況を作り上げたのだ。
 暫し無言のまま見えない火花を散らし合っていると、不意に審神者が大きな欠伸と共に体を伸ばしながら目を覚ました。
「ん……あれ、かせん?」
 ぼんやりとした意識で辛うじて近侍の存在に気付いた審神者が子供のように目を擦りつつ歌仙の名を呼ぶ。
 ゆっくりと目を瞬かせ、そしてふと自分が何か暖かな温もりに包まれている事に気が付いた。
「おはよう、主」
「ん、ん?んんん!?」
 驚き過ぎて声も出ない、とはこの事なのだろう。
 虚ろだった目を思い切り見開き、普段の審神者からは想像も出来ない程素早く立ち上がりつつ後方へ飛び退くとあわや倒れそうになった体を寸前で小狐丸が受け止める。
「大丈夫ですか、ぬしさま」
「へっ?小狐丸?何で?えっ!?」
 完全に混乱し正面で体を起こす歌仙と後ろで自分の体を支えている小狐丸とを交互に見ることしかできない審神者の様子に、ふうと息を吐きつつ仕方がないとでも言いたげに歌仙が口を開いた。
「手入が終わって顕現してみれば、何故かさっきの状態になっていてね。どうも主が僕の依り代を抱いたまま眠ってしまっていたらしい。どうしたものかと思った矢先に主が目を覚ました、と言うわけさ」
 すらすらと状況を説明していく歌仙に小狐丸は訝しげな視線を向けるが、審神者の方はそれで納得がいったらしく「そっかぁ…」と、どこか安堵したような表情を浮かべる。
「それで、小狐丸は何でここに?」
「ああ、畑で使う用具が見当たらなかったもので、ぬしさまならご存知だろうと思い、聞きに参りました」
 そう言いつつ、さり気なく審神者の寝乱れた髪を整える小狐丸の様子に歌仙の眉間へ皺が寄る。
「あっ、ごめんなさい。新調するから古いものは処分したってこと言い忘れてました。確か、新しいのは納屋の奥に……」
 言って案内するように部屋を出て行った審神者を追い、一度にやりという笑みを歌仙に向けてから小狐丸も部屋を後にする。
 一人残された歌仙は手入直後だというのにどっと押し寄せてきた疲労感に頭を抱え近くの襖にズルズルと寄り掛かる。
 何をしているんだ、自分は。
 つまらない見栄と嫉妬で主を困らせてしまった。こんなことでは彼女の近侍を名乗る資格なんて無いじゃないか。
 そんな妙に飛躍した考えが歌仙の頭に浮かんでいた時だ。
「……歌仙」
 自分を呼ぶ聞きなれた声で反射的にそちらへと顔が向く。
「あ、のね歌仙。さっきのあれ……なんだけど」
 両手を添えた戸から半分だけ顔を覗かせて気まずそうにしている審神者。
 その様子に歌仙の胸がずきりと痛む。
「ああ、主には嫌な思いをさせてしまったね。本当にすまな……」
「ちがっ!違うから!」
 勢い余り戸をガタつかせながら審神者が歌仙の言葉を遮った。
「さっきは、その、驚いただけで。その……えっと、嫌だったわけじゃないからね!」
 それだけを叫ぶと審神者はパタパタと廊下の向こうへ走って行ってしまった。
 再度一人になった歌仙は暫し呆けた顔を晒した後、赤くなった顔を隠すようにして畳の上へと崩れ落ちる。
 部屋を満たす暖かなひだまりは、今の歌仙には少しばかり暑すぎるようだった。


(2015/05/05)
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
43/45ページ