とうらぶlog
こつん、と小さな音がして畳の上を何かが転がった。
それが自分の持っている荷物からの落下物だと気付いたにっかり青江が一度荷物を置いてから近くの文机の下を除き込む、と。
「……何だい、これ?」
指先でつまんだそれを近くで同じように作業していた主に向かって差し出す。
その声に部屋の片付けを中断した審神者が顔を上げ、青江の手元にある物に気付くなりあっと小さく声を上げた。
「それ、そんな所にあったんだ」
青江から受け取った物をまじまじと見つめながら審神者の顔にぱぁっと笑みが広がっていく。
審神者の手にあるのは銀色の小さな輪っか――小さな青い宝石が付いているだけのシンプルな指輪だった。
「よかったぁ……。ずっとなくしたと思ってて」
「へぇ、それはよかったね」
指輪を手に、実に嬉しそうに笑う主の様子につられたのか青江の顔にも優しげな笑みが浮かんでいる。
聞けばそれは審神者になった祝いにと家族から貰い受けたもので、日々の忙しさに追われいつの間にか行方がわからなくなっていたものらしい。
「本当によかった……」
朝から随分と熱中していた片付けも忘れ、うっとりと指輪を見続ける主の姿に青江の中へちょっとした悪戯心が芽生える。
「それなら、さ」
言いながらひょいと主の手より指輪を取り上げる青江。
そして徐に驚く彼女の手を取って。
「もう無くさないように、ちゃんと着けておかなきゃねえ……」
意地の悪い笑みを浮かべながら、青江はゆっくりと主の左手薬指に向かって指輪を近付けていく。
少々世間知らずな審神者とて、その行為の意味するところを知らぬほど子供ではない。
その上青江が「もし、僕と君が“そう”なったら。君もカミサマになるのかな?」などと口にしたものだから審神者の顔がみるみる内に強ばっていく。
狼狽しつつも力では勝てず、掴まれた手を引くことが出来ない審神者が思わず大声で「青江!」と叫んだ瞬間。
銀色の指輪がぐっと審神者の人差し指へと差し込まれた。
「ぁ……」
「冗談だよ」
言いながらぽんぽんと審神者の頭へ手を置いて笑う青江。
そして先程置いた荷物を手にすると「これ、片してくるね」と口にするなり足早に部屋を出て行ってしまった。
取り残され、呆然と戸の方へ視線を向けるしかできずにいる審神者。
その視線を僅かに背中へ感じた青江は暫く歩を進めた後、近くの壁へどんっと体を打ち付けながら動きを止めた。
「……冗談だよ。冗談」
小さく繰り返しながら伏せた顔にどこか自虐的な笑みが浮かぶ。
そして唐突に顔を上げるなり。
「今はまだ……、ね」
誰に言うでもない呟きは、ほんの少し寂しげに本丸の廊下へ響いていた。
彼らしからぬ決意のようなものを声色の中へ隠しながら。
[ 2015/07/29 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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