とうらぶlog
「それでな!そん時に俺が……」
身振り手振りを交えながら満面の笑みで話す獅子王の声が広い野原に流れている。
手には連絡用の携帯端末を持っており、展開した半透明の画面にはうんうんと相槌を打つ審神者が実に楽しげな表情をして映っていた。
『じゃあ、その戦闘も獅子王が誉を?』
「あーいや、肝心なところでドジっちまってな。体勢を崩してる隙に他のヤツが……」
言いながら途端にしゅんとした顔になった獅子王につられ、審神者の表情も残念そうに曇る。
『そっかぁ……。でも獅子王なら次の戦闘でもきっと活躍できるよ。頑張れっ部隊長!』
精一杯の笑みを浮かべ両手をグッと握ってみせた主の激励に元来単純であるらしい獅子王の表情がみるみる明るさを取り戻していく。
その上少々調子にも乗ったのかにたりと悪戯っ子のような笑みを浮かべると。
「そう言えばさっきの戦闘でさ。真っ先に敵の攻撃を受けたのが歌仙だったんだけど、その時のアイツの顔がスッゲェわらえ……ッテェ!」
『獅子王!?』
妙な途切れ方をした獅子王の声に審神者が緊張した声を発すると、少しばかり間を置いて即頭部を摩る獅子王の背後から「誰の顔が笑えるって?」と僅かに怒気を孕んだ声が聞こえてきた。
見れば、大層不機嫌そうな顔をした歌仙兼定が獅子王の頭を小突いたのであろう拳を握ったままこちらを見下ろすようにして立っていた。
「イッッテェな歌仙!何すんだよ!」
「君が余計な話ばかりしているからだよ。まったく、戦闘報告程度にどれだけの時間を掛けているんだと思ったら」
ネチネチとした小言ではあるものの至極当然であるその言葉に獅子王はぐっと口を噤む。
「主も!報告を聞いたらすぐに通信を切るよういつも言っているだろう」
『はい。ごめんなさい……』
近侍に叱られ画面の向こうで小さな体を更に縮こまらせる審神者。
『それじゃあ獅子王、と歌仙。この後も頑張ってね』
ややぎこちない笑みを最後に審神者との通信がぷつりと切れる。
あっ……と残念そうに沈黙した端末を暫し見つめた後、立ち上がった獅子王の目がギッと歌仙の顔を睨めつけた。
「ったく、邪魔すんなよなー」
「君こそ、無駄なお喋りで時間を浪費しないでほしいね」
言いながら踵を返す歌仙に何か言い返そうと獅子王が口を開きかけた。すると。
「まったく、任務が早く終わればそれだけ早く本丸に帰れるって言うのに……」
ひとり言にも似た歌仙の呟きに獅子王の思考がゆるりと巡らされる。
そして、彼もようやくその事に気付いたようで。
「そっか……そうだよな!」
叫ぶなり、全力疾走で先を歩く歌仙を追い越していく獅子王。
その背中に掛けられた「単純な奴」と言う呆れたような呟きは彼に届くことなく空気に溶けて消えた。
残る敵の数も体力配分も知ったことか。
今はただ、この退屈な戦場を全力で走り抜けるだけだ。
全てを終えたその先に、小さな画面越しではない、本当の彼女の笑顔が自分を待っているのだから。
[ 2015/07/26 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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