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とうらぶlog

 
 あっ、と思った時には体が浮いていた。
 おそらく似た表情をしているであろう近侍を横目に重力に引かれた審神者の体が勢いよく地面へと倒れ込む。
 胸が打ち付けられて息が詰まり、遅れてやってきた肌の痛みに倒れた姿勢のままじわりと目尻に涙が浮かんだ。
「………いたい」
 ぼそり呟けば審神者の頭上から重すぎるため息が降ってくる。
「何をしているんです、主」
 心底呆れている近侍の声に醜態を晒したことへの恥ずかしさと悔しさが同時にこみ上げてギリっと強く奥歯を噛んだ。
「主命だ、長谷部。そこの段差をどうにかしろ」
 無駄に低く声にするが傍らに立つ近侍のへし切長谷部はそれが返事とばかりに再度深く息を吐き出す。
 顔を上げずとも容易に想像出来る長谷部の、人を馬鹿にしたような表情で勝手に悔しさを募らせていると不意に投げ出していた腕を掴まれて倒れていた身体がかなり強引に引き起こされた。
「ほら、いつまで地面とキスしているつもりですか」
「なっ!?」
 おそらくは彼女が最近凝っているゲームの台詞を真似た皮肉のつもりだろうが、耳に近い位置でそんな言い回しの言葉を吐かれては審神者の顔へ勝手に熱が集まってきてしまう。
 そんな彼女の様子には気付かず、立たせた主の着物に付いた汚れを軽く叩きながら尚も呆れつつ「怪我はありませんね?」と問い掛ける長谷部。
 審神者はそれに小さく「平気」と答えると立ち上がった長谷部がまた何か小言を言う前にその場を立ち去ろうと足を踏み出した。
 その時。
「いっ……!」
 突然足首へ走った痛みに思わずその場へと座り込んでしまう。
 どうやら転んだ拍子に痛めてしまったらしく腫れてはいないものの触れた部分は僅かに熱を持っていた。
「主!?」
 慌てて傍らへしゃがみ込んだ長谷部の手が患部に触れて神者の口から小さな呻き声が漏れる。
 咄嗟に手を引いた長谷部は顔を顰める主を見ながら暫し思考を巡らせた後、「失礼します」と口にするなり返答も待たずに彼女の体を横抱きにして立ち上がった。
「ちょ、長谷部!?」
「暴れないでください主。怪我に障ります」
 驚いて体を捩る審神者に長谷部の、言葉だけならば従順な声がかけられる。
「自業自得とは言え大事な主人の体ですからね。それを守るのが近侍の務めです」
 言って、怪我に響かぬようゆっくりと歩き出した嫌味な近侍に審神者は思わず笑ってしまっていた。
「……一言余計だっての」
 ぽそりと吐いた呟きに「何ですか?」という視線が向けられる。
 それに「何でもなーい」と答えながらするりと長谷部の首へ両手を回して抱き着いた。
 あからさまに動揺し、無言で硬くなる長谷部の体。
 けれど審神者を支える少しばかり強引な腕はそれでも優しく主の体を包み込んでいた。


[ 2015/07/18 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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