とうらぶlog
コトンと小さな音がして書籍の文字を追っていた審神者の視線が不思議そうに音のした方へと向けられる。
縁側へ腰掛けていた審神者の横へいつの間にか彼女が愛用している湯呑みが置かれており。そのまま視線を上へ移せばこちらもいつの間に現れたのか、内番をしていたはずの鶯丸が審神者の横でさも当然のように手にした湯呑みを啜っていた。
「えっ、と……」
状況が理解出来ず、何度も湯呑みと鶯丸とを交互に見やる審神者に「飲まないのか?」という実にマイペースな問いが掛けられる。
審神者は暫し考えた後、小さく「いただきます……」と口にして置かれていた湯呑みを手に取った。
湯気の立つ日本茶は初夏の季節には少々不似合いのものだったが時間を忘れて書物に没頭していた審神者の喉には丁度良い潤いとなってくれた。
暖かな茶を何度か喉に流し込み、ほぅと熱のこもった息を吐く。
それを見て不意に薄い笑みを浮かべた鶯丸に審神者の顔が気恥ずかしさでほんのりと赤みを帯びていく。
「あの、何かご用事だったんですか?」
顔を隠すように俯いてやや早口に鶯丸へ問い掛ける審神者。
「いや。ただちょっと、茶に付き合ってもらいたかっただけだ」
「はあ……」
確かに茶の一杯くらいならばいつでも付き合ってよいのだが。
しかし今の鶯丸は俗に言うサボりというやつではないだろうか。
今頃たった一振りで畑仕事をこなしているであろう刀剣のことを考えながらちらと呑気に茶を啜っている鶯丸に視線を向ける、と。
「ここは、いい所だな」
庭の木々に視線を向けたまま唐突に鶯丸が呟いた。
「明るく、穏やかで。ここにいると心が休まる」
「ああ、わかります。それ」
本来ならば歴史修正主義者との戦いにおいての前線基地であるはずの本丸。
しかしそれを統べる主君の性格故だろうか。
彼女を慕う刀剣達にとって本丸とは、まるで帰るべき家のような場所になってしまっていた。
そしてそれは彼らの帰りを待つ審神者にとっても同じこと。
「いつも必死に戦っているからこそ、ここが少しでも安らげる場所であってほしい。と、思っています」
そう言ってはにかむように笑った審神者にほんの少し遅れて鶯丸も柔らかな笑みを返してみせる。
そして「そうだな」と口にしながら再度庭の方へと顔を向けて。
「ここには君がいるからな」
最初その言葉の意味がわからず首を傾げる審神者だったが、続く「皆、君に救われているということさ」という言葉に途端顔を赤く染める。
「わ、私なんて、そんな……」
「ほら、そういう所だよ」
可愛らしくて癒される。
どこまでもマイペースに主をからかう鶯丸と、どんどん顔を赤くしていく小さな審神者。
皆の家である本丸には今日も穏やかな時間が流れていた。
[ 2015/07/08 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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