とうらぶlog
ここ最近、朝目覚めた審神者が真っ先に目にするのは自分の顔を泣きそうな顔で見下ろしている綺麗な青い瞳だった。
「おはよう、安定」
まだ霞む目でふわりと微笑めばそれを見た大和守の顔から僅かに緊張が解けていく。
いつの頃からだろう。
彼――大和守安定が眠る主の傍を離れられなくなったのは。
以前、病弱な審神者が高熱により数日間寝込んでしまった時。
本丸へ来たばかりの大和守は、付き合いの長い加州ですら手に負えない程我を忘れて取り乱してしまった。
以前の主と審神者とを重ね合わせてしまったのか、和泉守に頬を殴られてようやく冷静さを取り戻した後も酷く落ち着かない様子で審神者の部屋の前を所在なく歩き続けていた。
それ以来毎夜自室を抜け出しては眠る審神者の傍らに座り、一晩中見よう見まねで心音や脈拍を確認し続ける大和守。
そんな彼の姿に一番心を痛めているのが当の審神者だ。
何度本丸にいる限り自分が死ぬことないと説明しても人の体と共に得た心がそれを受け入れてはくれないらしい。
ゆっくりとした動作で着崩れた寝間着の前を正しつつ上半身を起き上がらせる審神者。
すると大和守はその体に抱きつくようにして彼女の左胸に耳を押し当て主が生きていることをもう一度だけ確認する。
それをして、ようやくほっとした表情を浮かべる彼に反し審神者の顔はどこか悲しげに沈んでいた。
「さて、と。朝餉の前に寝汗を流してこようかな」
そんな気持ちを切り替えようと審神者は無理に明るい調子で口を開く。
それは一人になる為の口実でもあったのだが大和守から返ってきたのは予想外の言葉だった。
「僕も一緒に行く」
思わず「へ?」と間抜けな声を出してしまった審神者を至極真剣な双眸が射抜く。
その視線と「心配だから」という言葉に不思議と反論の言葉を失ってしまい結局彼の同行を認めることになってしまった。
僅かに朝靄の掛かった廊下を進み、湯殿の戸を開けたところで審神者はちらと後方へ視線を送る。
まさか脱衣所にまでは付いてこないでしょう?という念は大和守の「どうしたの?早く入りなよ」という言葉にあっさりと打ち砕かれた。
そのまま押し込まれるような形で脱衣所へと足を踏み入れた審神者は、壁際に立つ大和守の至って普段通りの様子に「文句を言うだけ無駄だろう」と諦めて僅かに躊躇った後そちらへ背を向ける形で寝間着の帯に手を掛けた。
シュルりと、静かな脱衣所に布が擦れる柔らかな音だけが響いている。
薄手の寝間着を脱ぎ次いで下着をも取り払おうとした時だ。
突然背後から伸びてきた手が審神者の細すぎる脇腹へ絡み付くようにして触れた。
「また、痩せたね」
耳元で囁くように言われ審神者の背筋がぞくりと痺れる。
それを理性で振り払い咎めようと首だけで後ろを振り返った、瞬間。
眼前に現れた二つの青色が自身の中の感情を全て吸い取ってしまったような感覚に陥った。
何かを言おうとした唇は言葉すら奪われてしまったかのようにパクパクと魚のように動くばかり。
「あのね主。僕は、僕を愛してくれるあなたが大好きだよ」
言って、いつの間にか正面を向かされていた体に大和守の腕が回される。
肘の辺りに辛うじて引っ掛かっていた下着が床に落ちパサりと乾いた音がした。
一糸纏わぬ姿で立ち尽くす審神者と互いの視線は交わらせたまま細すぎる体を抱きしめる大和守。
ああ、そうか。
審神者はずっと、大和守が自身の存在によって過去に囚われていると思っていた。
実際、始まりこそはそうだっのかもしれない。
けれど今、眼前の青に囚われているのは紛れもなく審神者の方で。
「お願い主。僕のものになって」
ずっと、僕と一緒に居て。
吸い込まれるような青に見据えられ、それでも優しく審神者の耳朶を打った言葉は、酷く甘く彼女の中へと染み込んでいった。
[ 2015/06/18 ]
参加log/お題提供 #刀さに版深夜の審神者60分一本勝負
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