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何かの流れで、女の子というのは誰しもが必ず一度は恋占いを覚えるのだと話したら腹を抱えて笑われた。
「エース!」
デュースと共に失礼だなと詰め寄るが当の本人は「だって……」と何がおかしいのか悪びれもせず笑い続けている。
これならまだ興味ゼロでおやつにかぶりついている相棒の方が幾分かマシだ。(それはそれで失礼なのだけれど)
「そんなに変なこと言ったかな」
「いや、変って言うかさぁ」
お前の口から「恋占い」って単語が出たのが面白くて。
続いた言葉にかちんときて丸まった背中を両手で交互に殴りつけるがエースは余計に笑うばかり。
確かに男子校の中へたった一人放り込まれたせいで多少は言動が荒っぽくなってきてしまったけれど。
その上いつも一緒にいる二人が常にこんな調子な訳で。
そりゃ影響もされますよと、心中で思いながら振り下ろす拳へ力を込めた。
「ところで。必ずって事は、監督生も出来るのか?恋占い」
傍から見たらじゃれ合っているだけのこちらに向かってデュースが純粋な眼で問い掛ける。
その表情からは「見てみたい!」というオーラがきらきらした幻覚と共に滲み出していて。その眩しさに思わず目を細めてしまった。
「まぁ、少しくらいなら」
「お、いいねー。監督生のお手並み拝見ってキャー!!」
苛立ちを込めた笑顔を浮かべエースのジャケットへ片手を突っ込むと、わざとらしい悲鳴が至近距離で鼓膜を震わせた。
そのままゴソゴソと内ポケットの内を弄り、いつも持ち歩いているらしいトランプ一式を勝手に取り出して手近な机に広げていく。
「私が知ってるのは本当に簡単な相性占いなんだけど……」
言いながら広げたトランプをぐるぐると掻き混ぜ、途中から同じ事をするよう言って交代する。
「誰でもいいから異性を思い浮かべて好きなだけ混ぜて」
「え、っと……こう、か?」
「オッケー。そうしたら……」
いつの間にか静かになっていたエースにも見られながらカードを束ね、決められた手順で並べた後一枚ずつひっくり返していく。
「えっと、相性はいいみたいだけど友達止まりって感じかな?ちなみに誰を思って……」
「監督生だ!」「は?」
デュースの答えに食い気味に声を被せるエース。
「え、お前って、そうなの?」
「いや、異性って言われて思い浮かぶのが監督生しかいなくて」
母さんじゃまずいだろ?と続いた言葉にああ……とどこか納得する。やはりデュースはデュースだった。
「ほら、次はエースの番だぞ」
当然のように背を押されたエースと同じ表情でしばし見つめ合う。
互いに「まじかぁ」という雰囲気を出しながらもデュースからの期待に満ちた視線を無下にできる訳もなく、ため息混じりにどうぞとカードを差し出した。
それでも躊躇うエースへ。
「素人の遊びなんだから適当でいいよ。それこそ私でも……」
「そっ!れは。いや、そうだよな。うん」
何やら変な調子で一人問答した後、わかったそうするとカードを受け取って先程と同じように混ぜ始めた。
しばらくしてカードを受け取り手順通りに並べて捲る。
途中まではデュースと似たような結果が出て、最後の一枚を捲った時だ。
「えっ……」
現れたカードの柄を見て思わず声が出てしまった。
手元にあるのはハートのエース。最後に捲った位置の意味は。
「どーよ、監督生。俺達の相性は」
視界の端から聞こえた声に答えられぬままトランプを回収しようとするが。
「おっと」「あっ!」
最後に捲ったカードを奪い取り顔の前でひらひらと揺らしてみせるエース。
「なぁ、これってどーいう……」
そこまで言ったエースがこちらを見てギョッとする。
自分では見えないが絶対に顔が赤くなっていたから。
妙な雰囲気に耐えられず相棒の首輪を掴むなり「ごめん用事!」と逃げ出した。
オンボロ寮に向かって走りながら先程のカードを思い出す。
恋愛運を示す場所、そこに置かれたハートのカード。
それはつまり『運命の相手』を表していて。
「(どうしよう……)」
明日、どんな顔で会えばいいのだろう。
遊びのつもりだったのに。
気付かされてしまった感情を抱え、辿り着いた部屋のベッドへ倒れ込み、しばらくの間シーツを被って身悶えていた。
(2022/04/15)
参加ログ│#エー監ワンドロワンライ
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