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 これは誰も知らない秘密の関係。

 教室棟と実習棟とを繋ぐ渡り廊下。
 級友と談笑しながら外通路を歩いていると前から歩いてくる見知った長身を見つけ手を振った。
「こんにちは!ルーク先輩」
「やあ!ごきげんよう、トリックスター」
 週の真ん中のこの時間。自分達とルークのクラスとが入れ違いで実習棟を使っているらしく、何度も姿を見掛けるうちにこうして挨拶するようになっていた。
 特に会話をするわけでもなく、互いに手を振り笑ってすれ違う程度。
 けれど、どうにもこの先輩が苦手らしい友人達と相棒に言わせれば多少なりとも関われているだけで不思議らしい。
 確かに反応は大袈裟だし距離感がおかしい変わった人だとは思うけれど、あまり気にしたことはないので毎回「そう?」と適当に返している。
 再び談笑に戻りながら実験着のポケットへ手を入れる。
 指先に触れた紙の感触で緩む口元を悟られないよう、級友のくだらない冗談で少し大袈裟に笑ってみせた。

 放課後のオンボロ寮。
 その一室に作ってもらった暗室で黙々と写真を現像していく。
 学園長から渡されたゴーストカメラとは別の、手のひらに収まるほど小さなアナログカメラ。
 少々時代遅れな型の為こうして自分で現像しなければならない手間はあるけれど、使いやすく存外お気に入りだった。
 薬液を洗い流し作業台の上で干していた写真を手に取って、頭上へ掲げるようにして眺める。
「これも、これも?!これもかー!」
 ヤケクソ気味に吼えながら持っていた写真を空中へとばら撒いた。
 足元へ落ちていく写真の被写体は全て同じ。
 そのどれにも完璧なカメラ目線を決めるルーク・ハントその人が収められていた。
 素人目に見てもよく撮れた人物写真。
 本人や知人に見せればきっと褒めて貰える出来栄えだっただろう。
 これが全て盗撮されたものでなかったとしたら、なのだが。

 ため息を吐きながら暗室を出て後ろ手に閉めた扉へと寄りかかる。
 そのまま実験着のポケットへ手を入れて、取り出したのは蝋封がされた真っ白な封筒。
 宛名も差出人も無いそれの蝋封を躊躇なく破り、中から数枚の紙束を取り出した。
「ッ……!!」
 一目見て、ぶわりと全身へ鳥肌が立つ。
 封筒の中に手紙はなく、入っていたのは自分の写真。
 そのどれもがカメラのレンズとは別の方向を向いていて、裏側には撮られた記憶が一切ない日付と場所が流れるように綺麗な文字で記されていた。

 この“ 遊び”を先にはじめたのは自分だ。
 たまたま校舎から見えた、中庭に立つルークの姿があまりにも絵になっていて思わずシャッターを切ったのがはじまり。
 それからもしばらく同意のない遠目からの撮影を続けていると、ある日実験着のポケットへ見知らぬ封筒が入っているのに気が付いた。
 中身は自分の盗撮写真で、最初に受け取った1枚にだけ今では見慣れた綺麗な文字で『いけない子だね』と綴られていたのを思い出す。
 結果として恋に落ちたのだ。
 その瞬間、自分と同じ方法で意趣返しをしてきた悪趣味な先輩に。
「ふふ……」
 思い出して思わず笑い、受け取った写真を改めて眺める。
 どの構図も完全な死角からで、ああ……向けられていたのがカメラのレンズではなく彼の得意な弓矢だったならと想像し身を震わせた。
 あれ以来、どんなに頑張って死角を狙っても気付かれ、こちらに目線を向けてくるルーク。
 いつかまた、前のような写真が撮れたら想いを伝えると決めている。
 週の真ん中、いつもの場所で。
 2人しか知らない秘密の逢瀬を楽しみに待ちながら、明日もまたカメラのレンズを彼へと向けるのだ。
 

(2020/12/05)
参加log #twstプラス版深夜の創作60分一本勝負
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